記憶喪失1日目-5

私は今、ニコルがソフィーを連れてくるのを待っていた。壁のカーテンの近くで存在感を消す忍になりきり、勉めて壁と一体化を図っていたのだ。もはや私は壁と言っても過言ではないし、壁になるために生まれてきたといっても過言ではない。

……それにしてもこんな初めての場所に一人でいる時間はかなり心細い。ニコルよ…。早く戻ってきておくれ。


「…ん?公爵令嬢様じゃないか」


壁になっていると、ふと聞き覚えのない男の声が後ろから聞こえてくる。

おかしい。今私は壁と一体化しているはずなので、私に声を掛けたわけではあるまい。それに私の身分は高いので、相手から声を掛けてくることはまずないとニコルから聞いた。

…ふう。落ち着こう。色々なことが起きたからきっと疲れで幻聴が聞こえてきたんだろう。


「無視か?相変わらず感じが悪いな。」


「はぁ?」


いきなりの暴言にカチンと来て振り返って一言物申してやろうと口を開く。


「待てよ!またイケメンかよ!目の保養かよ!ありがとうございます神様!!!(あんた、誰に向かって口をきいてんの?)」


売られた喧嘩は買わねばなるまい。私はメンチを切って罵声を浴びせてやった。

そう、何を隠そう目の前にはドストライク性癖ぶっささり男が立っていた。

褐色肌、筋肉質、黒髪、少したれ目で目の色はグレー。

完璧が服を着てそこに立っているのだ。神様ありがとうございますありがとうございますありがとうございます。

何を言っているのか理解できないといった表情から少し間があき、その男は突然吹き出した。


「…ぷっ、イケメン?ついに頭がおかしくなったのか?褒め言葉として受け取っておく」


おかしい、ここの世界は美しかいないのか?美の化身しかいない神々の遊びなのか?


「イケメンにイケメンと事実を述べただけで褒めたことにはならない!純然たる事実!イケメンの輝きで目が潰れてしまうのでどこかにいってください!!」


強めの口調でそういうと、その男は突然腕を掴んで来た。


「シャルル?お前なんだかおかしいな?まるで別人のようだ」


そういうと目つきが鋭くなり獲物を探るかのような視線を私に向ける。

その言葉と視線に、全身の毛穴が開き汗がダラダラと流れ始めた。今は無言で目を逸らすことしかできない。


そんな中、またしても見知らぬ女性の声が響く。


「シャルル嬢!」

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