記憶喪失1日目-4
「もうやだ…帰りたい。」
私は半泣きでパーティーの会場である伯爵家の屋敷の門前に立っていた。
ニコルがため息をつきながら馬車を降り手を差し出す。
「参加するって言ってここで帰れるのか?明日からはお前の悪口で持ち切りになるだろうな。流石悪女、ドタキャンなんてお手の物。とか言ってな。」
追い打ちをかけてくるクソ男の手を取るほかないことにため息が止まらない。
話はこうだ。周りからの印象を聞いた際、出るわ出るわ悪女エピソードが。
曰く、ある時はドレスを踏んだ令嬢の頭に赤ワインをかけ「まぁ、牛肉だったらとっても柔らかいお肉になりそうね。まあそうね、でも、あなたの場合は…豚肉かしら?」と言ってのけ、
またある時はシャルル嬢は気が強すぎて女として見れないと陰口を叩いていた
子爵令息の前に颯爽と現れ「あら、ガマガエルが何かゲコゲコ鳴いておりますわね、もう夏だからかしら。うるさく鳴くだけ鳴いて、晴れの日には干からびてしまって死んでしまう誰にも好かれない悲しい生物ですものね。干からびる前に頑張って沢山鳴いていってくださいね」と朗らかに笑って社交界から完全に干し、
またある時には、ニコルの想い人、ソフィーに対し嫉妬で階段から突き落とそうとした。
一部でしかないがこれ以上は私のメンタルに深刻なダメージを受けるのでこの辺にしておこう。勘弁してほしい。
とりあえず普段から沢山喋るという性格なわけではなかったようだ。それは唯一の救いかもしれない。まずはソフィーに心からの謝罪をしなくてはいけない。私がやったことではないのに。仕方がない、これも今を乗り切るためだ。それに階段から突き落とされそうになったのが事実であればソフィーも被害者に変わりはないのだから。
「まぁ、ご機嫌よう。ってセンスで口元隠してニッコリだけしておけ。あとは俺がフォローする。こっちも婚約破棄がかかってるからな。」
「うぅ…ニコルありがとう。あんたがいなかったら本当に死んでたよ。」
肩を落としながら半泣きでため息交じりに言うと、ニコルはフッと笑った。
「とりあえずお前はソフィーにちゃんと謝れよ。」
「ひゃい…」
そういって会場の前までのエスコートが終わる。心臓がバクバクと音を立て、自分の耳にまで届くようだった。扇子を口に当て、とにかく表情を気取られないようにする。
そうして会場の扉が開いたのだった。
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