第20話 魔

「やっと出来た」

リーンが、書き取りを終えたのは、3日後だった。

「本当にがんばりました」

レティシアに頭を撫でられて少しだけ嬉しそうな顔をしているリーン。

けどね。

ちらちらとこちらを見るのは、、、

いや、じーっと見つめて来ている。


「ん」

ついに耐えきれなくなったのか、頭を差し出してくるリーン。

僕は思わず笑いながら彼女の頭を撫でていた。



先生に提出したら、3日で終わらせた事に驚かれたのだった。



「ふう」

中庭の小さな花の群生をみながら満足する。

一斉に咲いた小さな紫の花のおかげで、中庭は一斉に色づいていた。


「本当に、エル様が扱うとみごとな庭になるのですね」

レティシアが、ゆっくりと歩いて来る。

「差し入れです」

甘いお菓子を持って来てくれたみたいだった。


「レティシアって、ほんとうに料理もお菓子も上手だよね」

「前もいいましたけど、やりたいからやっているだけです」

それでも、すごいと思う。

リーンは料理はまったく出来ないし。僕も苦手だったりする。

二人とも、竜の実を食べているだけで生きて行けるし、その竜の実も枝術のおかげで、無限に手に入るしね。


そんな事を思っていると。


突然殺気を感じる。

レティシアを抱えて、飛ぶ。


一呼吸おいて、僕たちがいた場所が爆発していた。

「おや。当たったと思ったのですが?」

目の前にいるのは、黒いローブを着た男。

「学生じゃない」

「私もあんな気配は知りません」

「気づかれるようなヘマはしませんよ」

ローブの男が、片手を上げる。


あれは、、、

「爆魔!魔球」

「従雷っ!」

レティシアが咄嗟に放った雷が、男が放った真っ黒な光りを弾き飛ばしていた。

「エル様、あれは、、」

うん。分かってる。

「魔木、、、、爆魔の木、、、、」

「さすが、、、庭師。ええ。そうですよ。闇に属する木。魔木ともいわれるその力です」

男は小さく笑う。

「そちらの、お嬢様は力を使って大丈夫なのですかな。人には扱えないでしょう。木の力は」

「見くびらないで欲しいです。伊達に雷姫なんていわれているわけではないのですよ」

レティシアは僕の腕の中で小さく笑っている。

「狂った王族の一人というわけですか。しかし、私は止められない」

男が手を動かすと。

空中に闇の球が生まれる。

僕は枝を出す。


「私のために。いえ。私たちの為に死んでください。姫」

「神竜剣!壁!」

一斉に爆発が起きて。

僕は、レティシアを抱えて地面に落ちた。

「エル様っ!」

レティシアが全身から煙を上げている僕をゆする。

神竜剣は、、、発動しなかった。


「大丈夫。魔には耐性があるみたいだから」

正直、ぼろぼろだけど、魔耐性のおかげで死なずに済んだみたいだった。

ゆっくりと立ち上がる僕を見ながらニヤリと笑う男。

闇の光りが再び生まれ。


「エル様っ!竜聖剣!爆流ストリーム!」

銀髪を振り乱して、リーンが叫ぶ。


「剣姫も登場ですか」

男が小さく笑っているのが分かる。

「爆魔。魔笛」

突然生まれた衝撃波に、リーンの技も、僕たち3人も吹き飛ばされる。


「ここで、終わりにしましょうか」

男は魔力を集中し始める。

「エル!逃げてっ!」

リーンが叫ぶ。

剣を離さないところを見ると竜聖剣でなんとかしようと思っているみたいだけど。


「無理ですよ。魔木の力は、神にも等しい」

そう。

木の力。この世の魔木と神木は、神から与えられた物。

それを扱うからこそ、庭師は最強、、、、だった。


あれ、誰の知識だっけ、、、まあ、、、いいか。

「このまま、死んで下さい。雷姫。剣姫」

「リーン様」

「分かってる。お願いね」

二人が同時にうなずく。


「さようならです。 爆魔。魔震」

「この辺り一帯を更地にするつもりですか」

レティシアの額に汗が浮かんでいる。

リーンの身体が沈み込む。

僕は。

「魔木!瘴気魔力砲!」

両手から、魔力を打ち出していた。


二つの『魔』力が打ち消し合い。

消滅する。


「ふふふふ。ははっは。これは愉快!」

ばさりとローブのフードから、男の顔が見える。

そこには、人ではあり得ないほど青い顔があった。


「魔族、、?」

「魔族なんて、下等な者と一緒にしてもらっては困ります。私たちは魔神。

魔の全てです」

「まさか、庭師が、魔木の力を使うとは。そこの庭師も、仲間だったと言うわけですか。これは少し作戦の変更が必要ですね」

男は小さな黒い弾を手のひらから落とす。

「今日はここまでにしましょう。挨拶に来ただけなのでね。また会える日を楽しみにしていますよ」

黒い弾が地面に落ちて。


激しい爆風が起きる。

「雷震!」

レティシアの声が響き。

鼓膜が破れるかと思うほどの音と同時に、爆風が吹き飛ぶ。

雷の爆音で爆風を相殺するとか、レティシアもとんでも無いと思う。


「レティシア、、ありがとう」

「リーン様も、来てくださってありがとうございます」


真剣な顔のまま。二人は小さく呟く。

突然始まった爆音に慌てて校長や、ミーアが走ってくるのを確認しながら。

僕は目を閉じていた。

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超勇者になってやると意気込んでいたのに、「枝召喚」ってなんですか!?そもそも、「枝(えだ)術!?」って盆栽でもしろって事ですか?!聖女様からも無視されて、最底辺突破ですか?!最強外れスキルの最強勇者。 こげら @korea

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