第19話 隣
「ミーア?何かあったの?」
「いえ!大丈夫。うん。何もないから」
ひどく落ち込んでいるような気がしていたけど、気のせいだったのかな。
「本当にね、ちょっとエル君とお話したかっただけだから」
それだけ言うと、走って教室へと戻っていくミーアの後ろ姿を見つめていた。
「何をお話していたのですか?」
金髪の髪がさらりと視界に入る。
「ううん。ちょっと昔話をしてただけ」
「それは、私も聞きたいです」
銀色の髪がさらりと視界に入って来る。
「私は気になったりしませんよ。昔の女なんて、忘れさせてあげます」
目の前でにっこりと笑うリーン。
「とりあえず、これを皆さんで食べましょう」
レティシアがお弁当を出してくれる。
「エル君、リーンさん、レティシアさん。これを」
僕たち3人で芝生に座ってお昼を食べていると、先生が冊子を手渡して来た。
「1週間、3人とも休んでいたので、単位が微妙になる可能性があります。だから、これを写して来てください」
結構分厚い気もする。
その冊子を見て、真っ先に顔が引きつるリーン。
なんか、ぴきって聞こえた気がする。
そういえば、リーンて、書き取りが一番苦手だったね。
よく、集中が切れて、変な事をしててガルムさんに怒られていたっけ。
「あら。これって、魔法基礎学じゃありませんの?私、もう習ってますわよ?」
「それでも、やってもらわないとダメなのです。期限は、2週間にします。お願いしますね」
それだけ言うと、さっさと歩いて行く先生。
ぱらぱらとめくってみる。60ページくらいあるなぁ。この冊子。
「はぁ。まあ、復習と思えば、いいですわ」
レティシアは書き取りが嫌と言うわけでは無いらしい。。
僕もそんなに苦手な方じゃない。
パラパラと冊子をめくっていた僕の手元を見て、ギギっと音を立てて顔を上げたリーンの顔は涙目だった。
でも、手伝わないよ。リーンは、苦手な事は放り出す癖があるからね。
覚悟を決めてリーンを見ると。
あふれ出る涙で、ぐしゃぐしゃだった。
頑張れ。リーン。
結局、3人で書き取りをする事にして。
家に戻ってから始めたのだけれど。
「これ、食べますか?」
さらさらっと終わらせたレティシアが、クッキーを出してくれる。
「レティシアって、本当にお姫様?」
リーンが疑惑の目を持っている。
「だって。20歳までに死ぬって言われたら、やりたいことは全部やってしまいたくなるじゃないですか。死ぬ前に、泣きたくないですし」
笑うレティシアを見ていて僕は思わず感動してしまった。
「で、リーンはもう少し頑張ろうね」
手元を見るとリーンは20ページも進んでない。
「だって、二人とも速すぎなのよっ!なんで60枚もあるのにそんなに簡単に書き写せるのよぉ!」
ぐずぐずと涙目になるリーン。
いや、普通に、、いや普通じゃないかも。
初めてから、30分も経ってないけど、レティシアは終わってるし、僕もあと少しだったりする。
「二人とも、竜の力を無駄に使ってるでしょ!絶対そうでしょ!」
いや、リーンも、竜だよね。
そう言いたいけど、子供みたいになっているリーンには通じないかも。
思わずリーンの頭を撫でてあげると。
「だっこ」
え?
「だっこ!」
突然突撃してくるリーン。
「あら、すごく甘えっこなんですね。リーンさんて」
「いや、、リーンて、自分が限界になると、一気に子供に戻る癖があって」
「知らないっ!」
胸に頬を当てて、すりすりしているリーン。
「このまま~」
凄く幸せそうな顔をしているけど。
「ダメだよ。さっさと終わらせるからね」
リーンを引き離す。
「うう。エルが、酷い。いじめる」
「大丈夫。ささっと終わらせたら、エル様を独占していいですから」
「分った。やるから」
突然冊子に真剣に向き合うリーン。
「だから、今日は寝かさないからね」
ぼそりと聞こえた言葉に少しだけ僕は身の危険を感じていた。
【ミーア】
「何を話していたんだ?」
教室に戻ろうとした時、突然手を掴まれて、私は人気のない場所へと連れていかれる。
「いえ、ちょっと昔話を。エル君とはお話もしないで村を出たじゃない?だから」
「あいつに関わるな。あいつを見るな」
シャイ君の目がおかしい。
何かにとりつかれているかのような。
「痛い。痛いよ。シャイ君」
「お前もか。お前もエルがいいのか」
「そんな事無い!私は、シャイ君の聖女だよ!」
最近のシャイはどこかおかしい。
多分、エル君に負けた時くらいから、さらにおかしくなってしまった。
「お前も、負けた俺をあざ笑っているんだろ」
「そんな事ないよ!本当に、、どうしちゃったの?」
「お前も、俺なんかより、エルがいいんだろ」
少し怖い。けど、逃げたらシャイが何処か遠くに行ってしまうような気がする。
「なら、証明してみせろ」
シャイ君の手が私に延びて来る。
私は。そんな彼を受け入れる。
こんな爛れた関係、、いつまで続くんだろう、、、いや、、いつから始まったんだろう、、
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