第18話学校生活開始

「本当に、生まれ変わったのですね」

ウロコに覆われた腕を見て、レティシアがしみじみと呟く。

「本当に。。2人目、なんて私が知る限り初めての事ねぇ」

リーンが呆れた顔でレティシアを見ている。

3日間。

3日間、激しい痛みと、体をバラバラにされるような痛みを耐え抜いたレティシアは、目の前で笑っている。

リーンは深くため息を吐く。

人が竜になる事。それは、無限の痛みと、無限に死ぬ事を意味する。

それに耐えられる人なんて、世界中に数人しかいないだろう。


なのに、彼女は耐えた。叫び声を上げる事も無く。

何度も気が狂いそうになる痛みを耐えた。

「で、これは、消えるのですか?」

「自分が人であると思って、そうありたいと思えば、消えますよぉ」

レティシアがしばらく自分の腕を見ていると、スーっとウロコが消えて行く。

ほっとした顔をしているレティシア。

「慣れるまでは、しばらく袖のある服を着た方がいいですねぇ」

「そうね。そうするわ」

笑うレティシアの顔を見ていると、猛烈な眠気が襲って来る。


「エル様?ねむたい。。。。」

リーンが、突然かくっつと電池が切れたように眠ってしまう。

僕も、、限界だ。

「そうですね、、お二人とも、眠ってください。私は、リーン様の眷属で、エル様の妻ですから。お二人を、お守りしますわ」


3日間血をたらし続けたリーンと、レティシアを枝で癒し続けた僕の限界は早かった。




「今日から、学生としてお世話になる事になりました。エルです。よろしくお願いします」

僕は、レティシアが目覚めてから、2日後。

教室に立っていた。丸一日、眠り続けたんだよ。リーンと二人で。


「えー。エル君だが、学校の庭師としての仕事と、学生を兼務してもらう事になっている。その補佐は、レティシア嬢、リーン嬢にしてもらう」

それだけ言うと、校長は教室から出て行く。

いや、義姉さん。みんなどころか、先生までびくびくしてるから。

担任を差し置いて、校長が説明するとか。

「威嚇ですわね。エル様は、校長が一番気にしている人であると言うアピールですわ」

ため息しか出ない。

学校は、小さい頃に通いたいとは思っていたけど。

こんな形だと、普通の学校生活は難しい気がしてきた。


「庭師かよ」

「くそっ。なんであんな奴が」


「ねぇ、ねぇ。リーンさんて、エル君の彼女?」

「妻です」

「えー!もう結婚してるのぉ?」

「それだとレティシアさんと一緒にいるのは、なんで?」

「私は、第二婦人予定ですのよ」

「キャーーー!」


「死ね」

「ハゼロ」

「嫉妬の海で溺れてしまえ」


男子と、女子の反応の違いが真反対すぎて、頭が痛くなる。


「あ、あの、、」

女子に囲まれて、質問攻めにされていた僕に、おずおずと近づいて来た女子がいた。

「エル君、、、あの、久しぶり」

ふわふわの金髪。可愛いと言っていい顔立ち。

「うん。久しぶり。ミーア」

僕は幼馴染をあらためて見る。

けど、視線が合わない。

何かあったのだろうか。顔が暗い気がする。


「うん。本当はもっと早くに挨拶したかったんだけど、、ごめんね」

そう言って笑うミーアの笑顔に何かひっかかるものを覚えた。




「で、あるからして、、」

王国の歴史を聞きながら、僕は茫然と外を見ていた。

学校って、暇なんだなぁと思いながら。


こつんと何かが当たる。

飛んで来た紙を開けると、かわいらしい文字が躍っていた。

「放課後、庭に来てもらえますか?」

名前も無いその手紙を不思議に思いながら、僕は手紙をポケットに入れる。

どうせ、仕事もあるし、庭には行かないといけないからね。


「枝術!移転!」

「ふう。こんなものかな」

いくつかの花を植え替えた僕は、庭の前で笑う。

草の茎まで枝と判断してくれるこの枝術えだじゅつは凄いと思う。

どっかの学者さんは、枝を茎と言うらしいから、茎も枝と言ってもいいのかも知れないけど。

「あの、、」

突然声をかけられた僕が振り返ると、そこには、金髪の幼馴染がいた。


「突然呼び出してごめんなさい。あの、、、ゆっくりとお話したかったの、、ダメ、、かな」

「いや、大丈夫だけど」

僕の返事を聞いて、明るく笑顔になるミーア。

うん。そうやって笑うとやっぱり可愛い。

「ここ、座ろ」

庭の一画のベンチに二人して座る。

「あの、、ごめんね。なんか、エル君の事、無視するみたいに村を出て行っちゃって」

「いや、もう気にしてないから」

「もう、ってことは、気にしてたの?」

「あの時はね、、なんか、置いて行かれたような気分だったから。でも、今は大丈夫だよ」

じっと僕を見つめるミーア。

「なんか、、すごいね、エル君って」

何が凄いのか、分からない。

「だって、大人というか、何か、すごいなって」

ミーアが黙り込む。

「本当にね、気になってたんだ。エル君に何も言わずに出て来た事。だから、謝りたかったんだ」

突然顔を上げて笑うミーア。

「だって、嫌じゃない?あんなに仲が良かったのに。お話も出来ないって。まだ私は、友達のつもりだよ。エル君の事。それに、すごい強くなってるし。英雄になるって、エル君の夢だったものね。だから、これからも仲良くしてね。お願いね」

僕は、そんな彼女に戸惑いを覚えていたのだった。

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