第17話竜の一族

「ほんとうに、おかしな所はありませんか?」

何度も聞いてくるリーンの頬を撫でて上げて、笑い返す。

「うん。大丈夫だよ。調子はむしろいいかも」


魔木の種を取り込んで、今僕は魔竜となってしまっている。

数日寝込んでしまったからか、すごくリーンは気にしているみたいで、彼女まで僕が元気になるまで学校を休んで看病をしてくれていた。


「すまない、、」

その間、とても情けない顔をして、ゲフェルトまでお見舞いに来てくれていた。

こちらは、レティシアが追い返してしまったみたいだけど。

「あんな、底流貴族に、私の価値など分かりませんわ。いえ、エル様の価値など測らせる事すらもったいないですわ」

心の底から怒っているレティシアは珍しいと思ってしまう。


「明日から、また学校に行って、働くから」

「本当に大丈夫ですか?」

「うん。大丈夫。だから、リーン、、、離して」

ずっと腕を掴まれているから、なかなか動きにくい。

「だって、、、何か、エル様が別の物になったような気がするのです」

リーンは、ただひたすら僕の心配をし続けていた。




「学校での連続決闘。なかなか面白い事になっていますわね」

久しぶりに出勤したら、一番に校長に笑われてしまった。


いや、貴族の事なんだから、少しは抑えて欲しい。

そんな目を向けていると、校長は笑いをこらえていた。

「いや、これで、リーン嬢も、レティシア王女も、エル殿の物と分かったでしょう。これ以上、何かをしてくる者はいないと思います。それと、エル殿も、学校を堪能してもらおうと思っていまして。校内の二人を、いや、聖賢さんを含めて3人を完封した事実を持って、転入してもらう事になりました」

笑っているが、、決定事項のように言われても、、目の前に転入手続きの紙があるし。

しかも、その下に、もう一枚。

「これは、お父様が持って来させた物でして。王女と婚姻となると一般人では問題があるみたいでして。たとえ、王宮庭師でも、やはりもう一つの身分という肩書は必要だという人はいますから」

養子縁組の紙のように見えるんだけど。

「つまりは、私の弟になるわけです」

笑っているけど、、校長?エリナーシャさん?

つまり、僕に貴族になれと?

「何、ただの肩書です」

いやいや、笑っているけど、それって。


「囲い込みとも言いいますけど。でも、これは、王城命令でもあるのです。その意味、分かりますか?」

その言葉に。


二つの書類に、サインをするしかなかった。

王様命令でしょ。それって。



「やっと、正式に夫として発表できますわ」

笑っているレティシアに、リーンが睨みつける。

「エル様は、私の夫です」

「何、気にする事もないですわ。貴族が数人の妻を持つのはよくある事です」

「ありえません」

「大丈夫ですわ。私も、エル様のために、命を捨てる覚悟はありますから」

僕は、どうしても分からない。

「どうして、レティシアは僕のためにそこまで言えるの?」

「そうですわね。私は、、、そう。いわば、私も、木なのです」

僕たちが不思議な顔をしていると。

「幼いころから、私は雷木を食べさせられてきました。何度も死にかけましたわ。雷木は、微量でも致死量の電撃が残るのですわよ」


ありえない。

第4王女でしょ?

「それほど、私は疎まれて、いらないと思われていたと言う事ですわ。伝説の木の加護を受けるという名目の元、殺されるくらいには」

その目は、真剣だ。嘘を言っている様子は無い。そして、目に光りが無い。

どれほどの苦痛を味わったのか。

「だからこそ。私は、庭師に引かれます。そして。その頂点たる、エル様に引かれます。私を食べて。私をあなたの物にしてください」

突然、土下座するレティシア。

「私はあと5年で死ぬのです。雷木の加護は、20歳までしか受けられません。その後は、雷に全身を襲われ、焼け死ぬでしょう」

それが本当なら。

「私は、もともと、死ぬために生まれて来た身。ならば、精いっぱい生きて見せます。英雄の血を残せるのも、あと数年なのです」

本気の目。

だから、あんなに積極的なのか。


「本当に、、人間は、分かりません!」

リーンが、本気で怒っている。

えだ術でなんとか出来ないか調べてみる。

『木を食べて加護を得た者は、20歳で木に還ります。しかし、例外があります』

「リーン。木の力より、強い力を得れば大丈夫らしい」

「強い力、、、、!」

リーンは、思わず顔を上げる。

「僕の力じゃ、、強すぎる。お願い、出来るかな?」

「人間じゃ、無理よ、、エルがおかしいだけだもの」

何の話をしているのか、分からないレティシアは、僕たちを不思議そうに見ている。

「レティシア。これは、提案だけど。死ぬほど痛いけど、生き続ける事ができる方法がある」

「本当ですかっ!でしたら、何でもしますわ!たとえ、手足をちぎられても耐えて見せます!」

リーンは、すごく困った顔をしたまま。

「死なせないでね。エル。お願いよ」

「分かってる」

じゃあ、、行くよ。


リーンは、一言呟くと。

自分の剣で、腕を切った。

血が流れる。

「竜の系譜。竜の血。竜である事。竜となる事。理から、理屈から、遠ざかり世界の礎となれ。我らの眷属を今ここに生み出さん」

リーンの血が、レティシアの口に流れ落ちて。。。。

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