第16話最強の

「くそっ!」

地面を蹴り上げる。

アクセルセイバー。自分が欲しかった7聖剣の一つ。

その一本を惜しげもなく粉々にしてくれた。

そんなエルに、怒りすら感じる。


「価値なんか、、分からないんだろうが」

自分の持っている聖剣は、セイドセイバー。

攻撃力よりも、防御力が高い聖剣だ。

そして、アクセルセイバーは、高攻撃力の聖剣だった。


「あの剣があればっ!なんであいつがあの剣を持ってたんだっ!」

「荒れていますね」

ふと、後ろを見ると髭を蓄えた老人が、ゆっくりと佇んでいる。

「何者だ?」

シャイが睨みつけるのも気にする様子もなく、老人は背筋を伸ばしたまま、ゆっくりと頭を下げる。

「これは、申し遅れました。私はとある方にお仕えしている者です。そうですね。ガイヤとでも申しておきましょうか」

「何の用だ?」

「いえ。私と同じ境遇でありながら、焦っておられるあなたをお手伝いできればと思いまして。私の主も、同じことを考えておられます故」

シャイは、老人をもう一度見る。

タキシードを着て、隙が無いたたずまい。

「警戒されるのもうなずけます。しかし、同郷として、見捨てておけなかったのですよ。この世界の女神は、転生者の扱いがひどすぎる」

シャイの目が丸くなる。

「この世界には、インターネットもありませんから。女神の愚痴を拡散する事も出来ない。なら」

老人は微笑む。

「女神の思惑をすべて潰してしまえばいい。そうではありませんか?この世界の英雄を滅ぼし。私の主や、貴方が英雄となればいい」

シャイの返事を待たずに。老人は一本の剣を差し出す。

「これは、主からの贈り物です。ダークソード。聖剣とは真逆の魔剣。しかし、聖剣には無い力があります」

禍々しい光を放つその剣に、引き込まれる。

「聖なる力を取り込み、聖魔の力を発揮すると同時に、この剣は、絶対に壊れない、破壊耐性がついているのです」

シャイはその剣を取る。

「気にいってくれると思いますよ。神からの贈り物です。世界唯一のね」

そう言って、老人は再び頭を下げる。

「私の名前はガイヤ。それだけ覚えておいていただいて下されば幸いです。ではいつかまた会いましょう。【神の御子】様」

それだけ言うと、老人は闇へと消えて行く。

シャイの手には、禍々しい光を放つ剣が残っていたのだった。





「ははあっは!」

魔物が、まるで豆腐に刃を入れたかのように斬れる。

「これは、、すごい」

シャイは、ダークソードを振るう。

最恐とまで言われていた、デスボアまで、一刀両断だった。

「これなら、エルに勝てる」

にやりと笑うその姿は、まるで悪魔だった。








「エル様?お体は大丈夫ですか?」

「もし、何かあれば、私で発散してください」

おかしな発言をするレティシアはほっとくとして。

リーンはかいがいしく僕の世話をしてくれていた。

下手をすると、食事まで食べさせてくれようとするくらいに。。

「何かおかしな事にならないかと、心配なのです。竜の力と、魔の力が混ざってしまうなんて」

うん。

ごめん。ちょっと気になっただけだったんだ。

木は全て習得出来る。なら、魔木も使えるようになるんじゃないかと思っただけなんだけど。

すっごく心配させてしまっている。

けど、それも仕方ないのかも。

今僕の中で、竜の血が暴れてるのが分かる。

竜が、魔を取り込んで。

魔竜になろうとしているせいか、体がだるい。

竜の血なんて、何で飲んだんだろうなぁ。

僕は心配する二人の声を聞きながら、ゆっくりと目を閉じるのだった。




夢を見ていた。昔の夢を。

「リーンは竜なんだよね?」

「そうよ。誇り高く、最強の竜!」

「じゃあ、僕はいつか置いていかれるのかなぁ」

「何で?私、エルの事、置いていったりしないよ?」

「だって、僕、竜聖剣も使えないし。リーンほど早く動けないし」

「なら、私が守ってあげる!」

それだけ言うと、リーンは、黄金の実を差し出してくれる。

僕はそれを受け取り。。口に含んで、、、


「何故、黄金の実を食べさせた!」

「だって、、だって、、、一緒の、、、、食べて欲しかった、、、」

「人間には、黄金の実は、猛毒だ!一口で、竜の気に覆われ、負けてしまう!」

「私のせい、、?私のせいで、、、エル、、、しんじゃ、、、う」

大粒の涙を流すリーン。

「最後の手段ではあるが、、、エル君が耐えれるかは分からないが」

ガルムが、お父様が苦い顔をしている。

「竜の血を呑めば、竜に成れるかもしれん。しかし、これは、普通の人間には無理な話だ」

「下さい。。。。竜の血を、、、、」

僕はお父様の目を見る。決意した目で。

「いいのか?死ぬぞ」

「このままでも、死ぬのでしょう。でも、僕は、リーンを置いて行きたくない」

リーンが、真っ赤な顔をしている。

「なら、いくぞ」

僕の口に、ガルム父さんの血が流れ込む。

「ぐはっ!」

喉が痛い。体が痛い。

バラバラ。

いや、燃えている。

心が折れる。


死ぬ。

『おい。後継者。こんな所で死ぬとか、ないだろ』

煩い。

『枝(えだ)術の最強技、教えてやるよ。後継者がこんなバカとは思わなかったからな』

お前も、相当バカだろ。

『10歳と少し生きた程度のガキが、ここまで覚悟を決めれるとか。お前、2週目じゃないのか?』

煩い。何週目だろうか、知った事か。

『はぁ。記憶戻ってるのかよ。俺は知らねぇぞ』

早くしろ。

『そうだな。俺が出来なかった事。お前に任せる。これを教えるのは何度目かな』

さあな。

『記憶はまた封印しておいてやる。木々との契約でもあるしな』

ありがたい。知らない方がいい。思い出したくも無い。

『俺は、出来なかった。愛する者を守り通す事も。世界を癒す事も。だから、まかせた』


ああ。俺もだ。だから。任された。先輩。



「枝(えだ)術!木樹一体契約の木!」

始祖の枝が、召喚され。

僕と同化する。

僕は木となり。

竜となる。

『世界樹と同化した竜。それは、もう、、、、竜神だな』

苦笑いが聞こえた気がした。


「本当に、竜化してしまうとは、、後継者様は、、、どこまですごいのか」

ガルムが、呆れた声を出す。

「エル!エル!」

リーンが抱き着いて来る。

「大丈夫。僕は、リーンを置いて行かないよ。だから、、置いていかないでね」

「うん。リーンは、私は、ずっとエルの傍にいる!」

泣きながら。

リーンは僕の上から離れようとはしなかった。。。




「エル、、置いて行かないでね、、、」

ふと目を覚ますと、銀髪が、僕の上で揺れていた。

そっとその髪を梳く。

「うん。約束したものね」

竜神となった僕だけに使える技 神龍剣。

けど、足りない。

僕の中で何かが焦らせる。

「君を、守り通すよ」

僕は彼女の髪を梳く。

その下で、寂しそうに金髪が持ちあがる。

「私は、守ってくだされないので?」

寂しい顔でこちらを見るレティシア。

「国王との約束だからね」

「お父様とは関係なく。、見てくだされません?」

その言葉に、返事が出来ないでいると。

「まあいいですわ。絶対に、堕として見せますから」

そう言って笑うレティシアは、夜の光りに照らされて、すごく綺麗だった。


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