第15話癒す者

「決闘だ!」

「誰と誰だ!?」

「ゲフェルドだ!それと、例の庭師!」

「またあいつかよ」

がやがやと、皆が僕たちを見ている。

庭の一部。広場になっている場所で、僕は決闘を申し込んで来たゲフェルドと向き合っていた。


「さぁ。抜け!」

ゲフェルドが自分のレイピアを抜く。

華麗さを求めてレイピアを使っているといった感じか。


「僕、武器なんてないよ」

「エル様!」

リーンが、一本の剣を投げてくれる。

これ、、竜の里にあったヤツじゃ、、確か、、

「さあ、さっさと抜けっ!」

仕方なく、僕は剣を抜く。

少しだけ、蒼い光が漏れた気がする。


「ここにいる全ての者が証人だ!私が勝てば、レティシア嬢をもらう!」

いつから、そんな話になったの?


ほら、外野がすごく騒いでいるじゃない。

「リーン嬢だけじゃ、物足りないのかよ!」

「庭師、、なんて奴だ、、」

「レティシア嬢までかよ」

「野蛮よ、、」

女の子からまで、非難が飛んでくる。

「私の全ては、エル様の物ですわよ」

レティシアの声が聞こえて、男からは殺意が、女の子からは、黄色い悲鳴が聞こえるんだけど。


「さあ、勝負だ!」

ゲフェルドの鋭い一撃が飛んでくる。

けど。

遅い。


リーンなら、この間に4回は斬り合っている。

「エル様は、おかしい」

小さいころのリーンにそんな事を言われたなぁ。


「何を笑っている!」

鋭い一撃が、再び心臓を狙って来る。

それを余裕をもって弾き飛ばす。

「くそっ!」

再び攻撃が来る。

「くそっ!クソッ!ボケがぁ!」

何か、、違う。型も何もあった物じゃない。

勢い任せの攻撃だ。

「エル様!」

突然、一撃肩を突かれてしまう。


え?

剣が見えない、、

腕が斬られる。

違う。

これは、、

「魔力です!魔力の刃です!」

レティシアが叫ぶ。

「くそが、、くそがぁ、、、」

ゲフェルドの中に、何か見える。

あれは、、種?


「枝(えだ)術 鑑定」

思わずその種を調べてみる。

『魔木の種』

魔木?魔界に生えている木?魔物に、魔族に力を与える木。

言ってしまえば、竜の里にある黄金の実の木みたいな物だ。


「ゴロス、コロス、ころ、ころ、、」

顔が、腕が。

『成長します』

枝(えだ)術が教えてくれると同時に。

ゲフェルトの胸の辺りにある種が大量の魔力を放出し始める。

ゲフェルトの身体が膨れ上がる。


肌が、紫色に変化する。

腕も体も3倍まで膨れ上がる。

「魔族だぁ!」

誰かが叫ぶ。

けど、僕はその姿を見て、すこしだけ残念な気持ちになっていた。

「コロ、、ス」

意識が無い。

これは、、ただ暴れるだけの獣だ。


「ゲフェルト。何故、君がそんな物を持っていたのかは分からないけど。止めてあげる」

剣を構えなおす。

「エル様!」

リーンが走ってくるのが見えるけど。

「ぐぎゃぁぁっぁぁ!」

その口から、魔力が弾け飛ぶ。

「神龍剣!へき!」

壁が生まれ。

剣が、割れるように弾け飛んだ。


「枝召喚!始祖の木」

すかさず枝を召喚。

「神龍剣 ながれ


無理やり方向を変えられた魔力の奔流は空中へと飛んで行く。

枝の先端が。

ゲフェルトの胸を貫いていた。

「神龍剣 穿うがち

枝を捻り。

引き抜く。

えだ術 癒しの水」

「が、、が、、、グ、、、」

貫いた大きな穴が一瞬でふさがって行く。

そして。

僕の手には、種が一つ乗っていた。


「さすが、、と言いますか」

「エル様ですから」

人へと戻っていくゲフェルトを見ながら、僕はその種をじっくりと見る。

そして。飲み込んだ。

「え?!エル様っ!」

「吐いて、吐いてくださいっ!お願いですからっ!」

二人が本気で僕を揺さぶってくる。


『枝召喚獲得。 【魔木】瘴気魔力砲が撃てます。魔界瘴気耐性獲得』

頭に入ってくる情報。

さっき、ゲフェルトが放ったあの魔力奔流の事か。

「エル様?」

「エルさまぁ!」

レティシアまで、様呼びになってるけど。


僕は新しい力を得たのだった。



俺は、一人で剣を振るう。

思い出すのは、無能と思っていた幼馴染の事ばかり。

「なんだ?なんなんだ?」

自分は、転生して。

最強のスキル聖賢を持ったはずだった。

「俺は、聖賢のシャイだぞ」

なのに。

なんだ。あいつは。


枝だぞ。

リーンが渡したあの武器。

レジェンド級と言われる聖剣の一本 アクセルセイバーだったはずだ。

なのに。

一撃で割れた。

ありえない。それなのに。

その技で、

ちっぽけな枝で。

魔族になった人を助けるなんて。

お前は、、本当になんなんだ?

シャイは、茫然とその光景を見る。


少し頬を腫らしたミーアが、悲しそうにそんなシャイを見ていた。



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