1章 エピローグ

「おっさん居るかーーーっ!?!?」


 大声で叫びながらギルドの扉を勢い良く開け放つ。

 自分の罪を打ち明け、みんなと釣り合う男になると決意した深月はさっそく行動に出た。

 

みんなの後ろに隠れてバトルをサポートしているだけなんてそんなの真っ平ごめんだ。せめて隣に立てるようになりたい、それが深月のイメージするみんなに釣り合う条件の一つ。そのために鍛えてくれる師を探しに来たのだ。

  両手首を切り落とし、あげくに脅した相手に教えを請うなど普段なら考えもつかないものだが、今の深月は徹夜明け独特のハイテンションとみんなに受け入れられた多幸感が混じり合いトリップしてしまっている。

 早速辺りを見回して目的の人物を捜す。探し人はすぐに見つかり、『昼の影』メンバーといきなり入ってきた深月を呆然と見ていた。


「なんだ、おっさん居るじゃねーか。返事ぐらいしろよ」


 歩いていって声をかける。

 そこでようやくポカンとしていたアルザもはたと我に返った。


「ーーおっさんじゃないっ、お兄さんだ!! ったく、口の汚いクソガキだな」


 おっさんもな、というツッコミは心に押し止めてさっそく本題を切り出す。


「ボクに剣を教えてくれ」

「は? 今なんて?」

「ちゃんと聞いとけ。ボクに剣を教えてくれ」

「お前それ本気で言っているのか?」


 正気か? と問うてくるアルザに、やっぱり無理があったかと少し冷静に戻ったが、しかし深月にはアルザたち他に頼れそうな人間はいないわけで。


「こんなクズに頼まなくても、私が教えますよ」


 後ろから割って入ってきた声はアイリスのもの。その声音はなぜ自分では駄目なのか不満げだ。


「おいケンタウロスの嬢ちゃん、今オレのことクズって言った?」

「アイリスの剣は人間使う剣じゃないだろ?」


 あんまりな言いようにツッコんできたアルザはスルー。

 アイリスの剣はケンタウロスの突進力を活かしたものらしく、人間の深月では十分に使えない。


「あっ。そういやお前チャームボトルを吸い込んでぶっ倒れたんだって? アホだな!」


 無視されたことが気に食わなかったアルザは、深月が無視できないであろう昨日の失態を持ってきてげらげら笑った。


「なーー!? そ、それは……」


 なんでそれをっ!? グサリと精神にクリティカルヒット。言い返そうととっさに口を開いたものの、本当のことなのでなにも言い返せない。


 ふと微かな風を感じた。隣に居たはずのレーベの姿はいつのまにやらアルザの正面に、

 レーベの手刀がアルザの首筋に添えられている。


「きさまぁ……、次は首を跳ばして欲しいようだな?」


 地獄の底から響いているようなドスの利いた声。

 レーベが実際にそれをするだけの実力があることや、やりかねないことも知っているアルザは、


「すいませんっしたっ自分調子こいてましたっ!!」


 冷や汗をダラダラ流して早口で反省の意を叫ぶ。

 そんなアルザの様子がおかしかったのか、カミラは口元を隠して肩を震わせ笑っている。


「で、教えてくれんの?」


 アルザはしばし悩んだ後、


「……わかった。教える」

「マジで? ホントに?」


 自分から言っといてなんだが、まさか了承してもらえるとは。「おっさんってM?」喉のすぐそこまで出かかった言葉を苦労して呑み込む。


「その代わり交換条件だ。こっちがお前に剣を教える代わりに、」


アルザはそこで一度言葉を区切り、ネルを値踏みするように眺めどこか挑発的に笑う。


「オレ達はそっちはギルタブリルの嬢ちゃんに相手してもらおうか」


あ、相手? それって……つまり、そういう事なのか……。


「見損なったぞっおっさん、足元見やがって、……ボクの僕にエロいことしようとするなんて!!」


ボクだってまだラッキースケベの範囲のおさわりしかしてないのに。男としてあるまじき暴挙だ。

許すまじ。


「レーベ、この変態オヤジに裁きの鉄槌をーー」

「待て待て待てっ、何を勘違いしてるんだ!? 相手っいうのは模擬戦の相手だ! オレ達『昼の影』の模擬戦の相手をしてほしいって言ってるんだ!!」

「は? 模擬戦?」

「Aランクモンスターと命の危険の無い模擬戦できる機会なんて滅多に無いだろうからな」


夜の模擬戦のことかー、と酷い考えが頭を過ったが、それは無いだろうからスルー。


「ソレデ深月ノ為ニナルナラ、イイヨー」


どうする? と確認する前にネルは返事を返した。またその理由が半端なく可愛い。後でなでなでしよう。


「交渉成立だな。まぁオレの剣はクセが強いから、ジェイクと交代で教えたらそこそこものになるだろ」


 俺もなのか……。と名前が出たジェイクは渋い顔。


「で、どの程度強くなりたいんだ?」

「最終的にはおっさんと同じぐらいまで」

「お前なぁ……、オレがここまでくるのにどんだけ苦労したと思ってんだよ」


 簡単に言ってくれちゃって、とアルザは苦笑。

 無謀な事言ってるのは深月も十分承知だ。ガキ同士の喧嘩しかしたことのない高校生が、命をかけてモンスターと戦ってきた冒険者と並ぼうなんて無謀もいいところだ。

 それでも、無理でも無茶でも無謀でも、みんなに相応しい男になると約束したんだ。


「お前は『モンスターテイマー』なんだから、そこまで目指さなくてもいいんじゃないか? 自分の身を守る程度の力を付けて足手まといにならなければ、あとはサポートにまわればーー」


 続くと言葉を遮る。


「ちげーよ」


 アルザの言っていることはモンスターテイマーとしてはまったくもって正しいのだろう。

 でも深月はモンスターテイマーなんかじゃない。


「ボクは『モンスターテイマー』なんかじゃない」


 調教して無理矢理従わせる。そんな鬼畜なジョブと一緒にされるなんて、まったく。心外だ。





「ボクは『 モンスター娘たらしモンスターウーマナイザー』だ」





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モンスターウーマナイザー ヒデヒロ @hidehiro20

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