詐欺か幸運の天使か
黒猫館長
「5月6日 ゴールデンウィーク最終日の話」
5月6日月曜日。振り返り休日ということで、ゴールデンウィークのバイト生活から抜け出した私はある中型ショッピングセンターに向かった。というのも最近はまっているゲームである「ORE’N」はスマホゲームでゲーム内のデジタルカードを印刷できるのだが、この「カードコネクト」サービスを利用するためにである。開店時間である10時ぴったりにそこへ向かい、急いでアミューズメントエリアにある印刷機まで向かった。この印刷を行うためにはスマホに標示されているQRコードを読み込む必要が有るのだが、このカメラの精度がひどい。うまく読み込めずもたもたとしていると、背後からその男は現れた。
「それカメラ全然読み込みませんよね。もっと(QRコードを)近付けると読み込めますよ。」
身長は180cm程度無地のグレーのTシャツを着こんだ少し恰幅のいい30代前後の男。彼のアドバイスに従ってQRコードを読み込もうとしたが失敗した。よくよくスマホを見るとQRコードは拡大ができることに気づき、それを用いてようやくカードの印刷に成功した。
「マズル(今回印刷したゲーム内のキャラクター)強いっすよね。ほかにこのゲームやっている人初めて見たなあ。」
男は昨日もここで印刷を行っていたが時間がかかって大変であったと話した。今日も印刷に来たため背後に並んでいたのだろうと思ったのだが、話の流れで彼はこんなことを訪ねてきた。
「ここらへんでほかにゲームセンターってありますか?よかったら連れて行ってほしいんですけど。」
初対面の人間にそのようなことをわざわざ聞くだろうか?グーグル先生を使えばいとも簡単に見つけることは可能だろうに。しかし面白そうだ。そう考えた私は、男の頼みを聞いてみることにした。駅前にあるゲームセンターへ案内しますよと告げ、男の案内を始めた。結局男は印刷機を使わなかった。
「Xキューブ」をご存じだろうか。VR機器を使ったアミューズメントが楽しめるゲームセンターだ。私も一度は言ったことはあるが、眼鏡が邪魔であまり楽しめなかった思い出がある。彼をそのゲームセンターがあるビルの前まで案内すると、中には入らず煙草を一服吸いたいといってきた。私が了承すると、待たせて悪いからと自販機からドデカミン(140円)を奢ってくれた。案内の道中男が話してくれたことは、彼が週6勤務で手取り53万円であるということ。そして男が働いているのが先ほどまでいたショッピングセンターに新設されたパチンコ店「楽園」であること。男は同じように自販機で購入した缶コーヒーを飲みながら得意げに続けた。
「パチンコって標示した通りの確率で動いていると思います?」
いえ全く。私はパチンコなど一度もやったことはないが、それゆえにそこに夢も見たことはない。すると「さすがっすね」とこちらを持てはやし男はコーヒーを一口飲んだ。
「最近のパチンコって技術がすごくて確率何ていくらでも操作できるんですよ。それこそあの台だけずっと勝ち続けようとか、この台はずっと出ないとか。」
どうやらこの男は自分の働いているというパチンコ店の話をしたくてしょうがないようだ。ここまで一度もタバコを吸う様子はない。同じようにXキューブに入る様子もない。
「俺8年働いてたら店長に主任になってくれって言われて、メリットとデメリットどっちから聞きたいかって聞かれたんですよ。とりあえずデメリットから聞いたんですけど、それが週6日のフルタイム仕事って。それは嫌だって断ったんですけど、メリットの方を聞いて考えを変えました。何だと思います?」
今の話の流れでわからないわけがない。その通りにこたえるとやはり男は明るい口調でこちらをほめたたえた。このような「よいしょ」で喜ぶ人間も多いのだろうが、自己評価が低いと自認している私からすると少し気持ちが悪かった。
「そう!週1で指定した台で確実に勝たせてくれるってことになったんですよ。~中略 そのおかげで毎月30万円使って90~120万円勝てます。ぶっちゃけこの最低保証がないとパチンコなんてやる気になりませんよね。」
給料よりパチンコで勝つ賞金の方が高いらしい。男は2年で2800万円を稼いだという。そして知り合いの新卒の友人にもその席を少しだけ譲っているらしい。
「彼ともちょくちょく一緒に打ちに行くんですけど、600万貯金できたみたいです。俺が学生だったなら使っちゃうけど、貯金するなんてまじめっすよね。」
男はその証明をするかのように財布の中身を見せてくれた。万札が10枚つづりでまとめられているようで今所持金は100万程度あるという。この話の間にパチンコ台で登場するアニメで好きなものはあるかなど、こちらへの質問もいくつかあった。私はある程度アニメのことも知っていたのですべて回答した。男はアニメの話ができる友人がおらず、今回とてもうれしかったらしい。
「今日これからうちに行くんですけどどうですか?せっかくなんで。」
男にパチンコ店のあるあのショッピングセンターでともに打つことを誘われた。どうせ打つなら楽しく話せる相手とやりたいのだという。確率100%で掛け金が3倍になるのならこんなにうれしいことはない。私は喜んでその話に乗ることにした。Xキューブには結局はいることはなかった。
ショッピングセンターに戻り、さあパチンコ店に行こうとすると男は先ほどコーヒーを飲んでいたにもかかわらず、飲み物が欲しいと言い出した。コンビニに行きたいというのでついていく。その店の前で男は言った。
「今日打ちに行くんですけど、15万円は自腹で出してほしいです。後の15万は俺が出すんで。」
無理です。せいぜい1万円ですね。そう答えた。だが男は渋い顔をする。なら5万なら出そうと、言ってみた。
「間をとって10万でどうですか?せめてそのくらいは出してほしいです。手持ちでないならコンビニで引き出してもらって。」
残念ながら、今自分は10万円を持っていないし、引き出す手段も持ってきていない。別に私は儲けなくていいので勝つところだけ見せてくれませんか?と提案してみる。
「すみません。打たないで待っているとほかのお客さんの邪魔になっちゃうので。ならまた会った時に一緒に打ちましょう。今日はありがとうございました。楽しかったです。」
これは残念。たとえ詐欺だとしても5万ならギリギリ出してあげようと思っていたというのに。男はコンビニに入るもトイレがなかったといってショッピングセンターに走って戻っていってしまった。飲み物が欲しいとは何だったのか。
ちなみに私の所持金は1万円、キャッシュカードなどもしっかりとお財布に入っていた。これが今回私のであった面白い体験の一部始終である。私が10万程度ポンと出せる人物であったならいいのだが、貯金総額が40万程度の学生の身の上ではそれは難しかった。彼は詐欺師だったのだろうか。それとも本当に偶然出会った幸運の天使であったのだろうか。貴方が10万なら惜しくないというのならば、ぜひ騙されに行ってもらいたい。私の心残りは彼がどちらであったか確かめられなかったことのみであるのです。(うーんでも本当だったら10万が30万になるのか―しくじったかなー)
今回は実体験の話ですので、何か聞きたいことがあればぜひコメントしてください。わかる範囲のことならば回答するつもりです。
詐欺か幸運の天使か 黒猫館長 @kuronekosyoko
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