第参話 新入部員

「部長ー、相談いいすか?」

部室(屋上)で寝そべりながら話す凪に武尊は本を読みながら頷く

「昨日から波が全然口聞いてくれない〜」

「原因に心当たりはあるのか?」

「あるにはあるけど」

「だったら早めに謝るんだな、兄が謝れない人間なんて可哀想だろ?」

そんな他人事のような返事にイラッと来た凪は、

「てか、原因は完っぜんに部長テメーが始めたクソしょーもないババ抜きのせいな!なんでクラスで浮いてる奴にあんなことさせんだよ!」

「おいおい、じゃあお前がイカサマに引っかかって勧誘活動すれば良かっただろ?」

「俺は新クラスの自己紹介でコミュ障の人格が表に出たせいでクラスで浮いちまってんだよ!」

「奇遇だな、俺もカニバニズムの本を読んでたらなんだか警戒されてしまったよ、ハッハッハッ」

2人が言い争いをしていると、

「部長ー、兄上ー!」

満面の笑みで波がスタスタと歩いて来る。

昨日の1件から今日は来ないと思っていたため2人は喜んで迎える。

「波〜」

波はそう言って抱きつこうとする凪の顔にべしっと紙を叩きつけた。

ヒラヒラと落ちるその紙を見ると、

入部届け

と書かれていた。

「ええー!?昨日捕まえたのか?」

2人は驚いて波の肩をガクガク揺らす。

「そーなんだよね、私コミュ力あるからさー」

そう言ってニコニコ笑っている。

「え、じゃあ昨日口聞いてくれなかったのは?」

それはお兄がドヤ顔でイカサマ見抜いたのがムカついたから。

ガックリと肩を落とす凪を放置して武尊は

「その新入部員は今日来るのかい?」

と、テンションを上げている。

うん、じゃあ紹介するよ、

そう言って波が入口から引っ張ってきた女子を見て2人は驚いた、

「足立クシナ!?」

そう、学年一の美少女、足立クシナが来たのである。

「えーっとなんでうちの部に?」

大きな体を見上げ、凪は動揺しながら聞いた、

「凪さんは私に付いてる異名って知ってますか?」

異名という単語に波が目を輝かせて反応する。

「百人斬りの美女」、、、だろ。

全く分からない凪の代わりに答えてくれたのは部長だった。

尊敬の眼差しで見る波を置いて彼女は話し始める。

「はい、ご存知の通り私は沢山の方々に告白されます。ただ、、、私には感情が無いので恋人は愚か友達も作れません。

だから、ここで人間を知って、いつか感情を手に入れたいんです。」

学年一の美女の衝撃の入部理由に凪は思った。

(やばいやつが来た、、、)

(普通考えて感情が無いやつって怖すぎるし、

感情を手に入れたいって感情だろ)

自称多重人格者の凪が、自分を棚に上げて脳内で論破していると。

波は彼女が非常に気に入ったらしく

「貴方からは同じ種族トライブの匂いがする。今まで大変だったわね」

と肩を組み迎え入れる気満々の様子だ、

頼みの綱である部長は、

「ああ、この人間を標本にしたらどれだけ美しいだろう」

と、ダメな様子である。

ここを守れるのは俺しかいない!と使命感に駆られている凪は

「感情が欲しいって言うのは感情じゃん、、、」

と弱々しく言った、

その言葉に反応したクシナは目を鋭く尖らせ凪の目の前に来て

「貴方は感情で睡眠を取りますか?感情が欲しいと言うのは人間の本能であって感情ではありません」

と顎を上げさせながら言った。

「じ、じゃあ、感情が無い証拠を見せて見ろよ」

淡々と反論するクシナに、たじたじになった凪の口からは勝手にその言葉が漏れていた。

波はそれを聞いて、

「はー?お兄なんて事言うの!クシナさんこんな奴のこと無視して良いからね」

とご立腹の様子。

だがクシナは気にする様子も無く、

「良いですよ。例えばどんな事をすれば良いですか?」

冷静になった凪は、少し考え妙案を思いついた。

「じゃあ、感情が無いのなら、この場で【暗黒の絶対神よその力を我に捧げよドンクルハイトシュヴェーアト】と叫んでも恥ずかしくないだろ!」

それを聞いた波は顔を赤くして、

「おいお兄、それではまるで私に羞恥心が無いみたいじゃないか!」

そう、これは波がよく家で練習している呪文だ。

クシナは少し考えるように首を捻ったあと、

「それは遠慮します」

と落ち着いた声で言った。

勝利を確信した凪はニヤリと笑い

「やはり羞恥心はあるようじゃないか」

と煽るが、

「いえいえ、ファンクラブの方々が来たらあなた達が困るでしょう。

それより羞恥心を試すならもっと簡単な事がありますよ。」

そう言ってクシナはおもむろにシャツを脱ぎ出した。

突然の出来事に3人は顔を真っ赤にして固まる。

「どうですか?羞恥心なんて無いのでこのまま全部脱ぎますが」

そう言って彼女がスカートのチャックに手をつけた瞬間、

「分かった、感情が無いことは分かったから」

顔を背けた凪はそう言って負けを認める。

勝負を終えたクシナはシャツのボタンを閉じながら武尊と凪の体勢がおかしな事に気づいた、

「あら、腰を曲げてお辞儀なんて礼儀正しい部活ですね、明日からよろしくお願いします」

そう言って無表情のままお辞儀をして帰って行った。

NoemotionGirl《感情の無い女》足立クシナ加入、

廃部回避まで残り2人

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