第弐話 勧誘

「部長ー、4月なのに新入部員の勧誘活動とかしなくていいんですかー?」

いつもの屋上で波は双眼鏡を覗きながら部長に聞いてみる。

すると彼は、持っていた屠殺現場の写真集をパタンと閉じて

「するにはするさ、だが信頼できる人間じゃ無いと意味が無いだろう。」

そんなゆったりとした発言に凪は呆れ気味で、

「今年までに6人だぞ」

と喝を入れる。

そう、3人の通う白泉学園中等部では部員3人で同好会申請が通り、その後1年以内に部員を倍の6名以上に増やさなければ解体というルールがある。

そのため毎年この時期は新入部員の勧誘が激化しており、1年のほとんどは何らかの部に所属している。


喝が聞いたのか部長は少し考えて

「そうだな、じゃあ下駄箱の所で勧誘活動をするってのはどうだ?」

2人とも「良いじゃん」と賛成の様子である。

「じゃあ、凪頼むわ」

てっきり、部長がやるものだと思っていた凪は慌てて、

「いえいえ、こうゆうのは男性より女性の方が適していると思います。ですので妹よ、頼みましたよ」

「私は孤高の存在なんだ、故に浮世の人間とでは高貴すぎて会話にならない、ここは我らの長である部長の仕事でしょう。」

3人の間に火花が散った


このままじゃ埒が明かないとわかった部長は、

「じゃあわかった!ババ抜きで負けた奴が靴箱で勧誘活動するって事で。それでいいな!」

と言ってトランプを取り出した。

こうして3人の決戦の火蓋が切って落とされた


「ふむ、どれを引こうか」

波は部長のトランプに手を伸ばした。

(大和武尊やまとたける、若干15にして兄を魅了しこの部を1人で創立した男だ!面構えが違う)

そんな事を考えながら、3枚ある内の真ん中のカードに手を伸ばす、すると武尊の顔が曇った、もしかしてと思い、手を他のカードに向けると武尊の顔が輝く、

(わかりやすい)

少しかわいいな、と思いながらも自己紹介でやらかして以降、クラス全員から腫れ物扱いされている波にとって、1人で勧誘活動など死んでもごめんだ。

(絶対に負けられない!)

そんな思いで右側のカードを引く、

そろったんじゃないか、そう思いながら手に取ったカードは、

なんとババだった。

混乱する、亜美を横目に武尊はカードを揃える。

そう、彼はあえて演技をして波がババを引くように誘導したのであった。

(このクソガキ!)

波は心の中で先程(かわいい♡)なんて思った自分をぶん殴った。

波がカードを引いて武尊はそのまま上ったため兄である凪との一騎討ちとなった。

(こうなったら)

波は後ろで混ぜるフリをして予備のトランプからババを抜き取り手札を2枚ともババに変えた。

(すまないお兄、だが私は本当に無理なんだ)

安心感から、波はほくそ笑んで凪の方にトランプを向けた、凪は右側のババに手を伸ばした。

と思いきや波がカードを隠した右袖を掴んで、

「みーつけた」

そう言って右袖からカードを取ってしまった。


ゲームが終わった直後、負けた悔しさとズルがバレた恥ずかしさから波は涙目になりながらで「行ってくる」と言って滑り落ちるように階段を駆け降りて行った。


靴箱に来た波は、靴箱近くの生徒に近づいては離れてを繰り返していた。

傍から見たらかなり挙動不審な彼女の頭の中では緻密な作戦が練られていた。

(まず集団行動してる人には話しかけるのはさすがに厳しい、そして既に部活に所属している人も無理だ!あと出来るだけ口数は少ない方が良い。

つまり狙うは部活に興味無さげで、なおかついつもひとりぼっちでいる人間。)


そして、日頃から培ってきた人間観察力で1人のターゲットを見つけ話しかけた。


話しかけたのは同級生の浅間君、学年一位の秀才である彼は部活に興味無さげな上、今にもぼっちで帰宅しようとしている。

波は(アイツは同類、アイツは同類)と自分に発破をかけ、話しかけた。


「おい貴様、私が所属する組織人間研究部部員ソルジャーとして共に明星監視者人間観察の任に付かないか?」

同級生をいきなり貴様呼ばわりする礼節を欠居た態度に、浅間くんはやばいやつでも見たかのようにそそくさと立ち去ってしまった。

そんな様子を靴箱の角から見ているやばい男たちが居た。


「クソ、何だあの陰キャ僕の妹を無視しやがって」

「まぁ落ち着け、まずはアイツの生活パターンを把握して、1人になった所を待ち伏せして、捕獲、拷問して、死んでしまったら犬のエサにでもすれば良いさ。」

2人が無実の浅間くんを拷問する妄想をしている一方で、波は1人目に無視された事で完全に心が折れその場で体育座りをしていた。そんな彼女に、1人の女子が声をかけてきた。

「あの〜、人間研究部って聞こえたんですけど〜」



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