缶詰状態で創作

リュウ

第1話 缶詰状態で創作

 段々と明るくなっていた。

 チュンチュンというスズメのさえずりが、耳に心地よい。

 ピッという電子音がすると、モーター音が聞こえ、私の上半身が起き上がる。

 目覚ましだ。

 私はこの目覚まし機能を気に入っていた。

 びっくりすることは無いので心臓に良いし、私の睡眠サイクルを学習しているので、目覚めがよい。

 寒い部屋で、毛布に包まって二度寝し、出勤しようか迷うと言う楽しみが無くなったのかもしれないけど。

「カーテンを開けて」

 私の声でカーテンがゆっくりと開けられる。

 いつも通りの朝だ。

 私は、ベッドから置きだし、洗顔し髪を整えた。

 髭は、剃らない。

 会社務めばかりだったので、髭を剃るのがマナーだった。

 髭を剃らないのは、私に取って憧れの一つだった。

 誰にも縛られないという解放感があるからだった。

 解放感と言えば、今の私は、ほとんど解放されている。

 今、私は有料老人ホームに入居している。

 家族は、解散状態だ。

 子供は独立したし、妻は旅行に出かけるのが夢だったので、別のホームで暮らしている。

 会いたい時に、会うと関係にしていた。

 その方が、楽しんで生きれると思ったからだ。

 妻からは、旅行先から写真や動画が送られてきていうので、楽しんでいると思う。

 私は、ここで独りを楽しんでいる。

 私の部屋は、全て整っていて快適だ。

 冷暖房完備、温水洗浄機能付きトイレ、テレビはもちろん、WiFiも完備され、言うことなしだ。

 ナースコールも付いている。

 1階にあるエントランスラウンジは、2階まで吹き抜けになっていて解放感があり、高級家具が置かれているので、高級ホテルにいるようだ。

 高級ホテルで暮らすことは、私は慣れている。

 私は、定年後、作家になっていたからだ。

 締切間近になると、ホテルに閉じ込められたものだ。

 缶詰状態で創作。

 今思えば、緊張感があって、あれはあれで楽しかったのかもしれない。

 今は、何処でも仕事ができる環境があるので、そんなことは無くなった。

 作家活動と投稿サイトでコミュニケーションを取っている。

 接触しないことで、余計な病気にかからないから。

 私は、パソコンを立ち上げ、投稿サイトを開いた。

 メッセージが来ていないかをチエックする。

 投稿仲間のメッセージがいっぱいだ。

 私も頑張ろうと気合を入れる。

 まだまだ、書きたいことはあるのだと。

 ○○文学賞を受賞するまでは、辞められない。



 病室に家族が集まっていた。

 別途には、沢山の電極がついたヘッドギヤを頭に付けた男が横たわっていた。

「延命処置を続けますか?」医者が家族に問いかける。

 このヘッドギャは、延命処置と言えば、延命処置なのだろう。

「もう、いいんじゃないかと思います」と妻が言った。

「親父が夢だった作家になれたのだから、このままいかしてやってください」

 子どもと思われる男が、医者の眼を見て言った。

「そうですね。終わりにしますか……」

「最後に、○○文学賞受賞で終わりにしましょう。

 幸せの夢の中なら、成仏できるでしょう。

 人生なんて全て夢みたいなものですから」

 老人ホームのシステム管理者が、契約書を家族に差し出した。




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缶詰状態で創作 リュウ @ryu_labo

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