第21話交際後も物語は続く

「今日、厨房を任せてしまっても良い?」


身支度をしている最中に僕は水野彩に問いかけていた。

彼女は首を傾げて先の言葉を待っているようだった。


「うん…帰ってきたら昨日の答えを伝えたいんだ」


それでも水野彩は未だに理解できていないようで首を傾げたままだった。


「色々な事に決着を付けてくるよ」


それで彼女は僕の言いたいことを理解したようで大きく頷くのであった。



店休日でもないのに僕は歌穂の家に赴いていた。


「どうしたの?急に来るなんて…」


「うん。ミカちゃんと爻くんに最後のプレゼントを渡したくて」


「え?最後って?」


「うん。子供たちにプレゼントを渡したら話をしようと思う」


「わかった…」


そうして僕はミカの部屋に向かうと彼女に最後のプレゼントを手渡した。


「これで配信機材が揃った…ってことはお母さんとは…」


全てを察して事情が理解できているであろうミカに僕は申し訳無さそうな表情を浮かべて頷いた。


「そっか…じゃあ今までありがとうございました」


「うん。元気でね」


「はい。一さんも」


ミカと僕は部屋で別れると次に爻の部屋へと向かった。


「これで最後になるけど…新しいゲーム機と人気のゲーム。

ランキング一位になるほど頑張ってほしい」


「うん…じゃあもう会えなくなるってこと?」


「そうだと思うよ。お母さんを支えてあげて」


「やっぱり子供がいるとハードル高かった?」


「そんなことないよ。僕は君達とも仲良くなれると信じていたよ。

でも…他に好きな人が出来てしまったんだ」


「じゃあ仕方ないね。これからも自分の幸せを追い求めて」


「あぁ。君達親子もね」


「さようなら」


そうして僕らはそこで別れる。

僕はリビングに向かうと歌穂と相対した。


「言いたいことは分かるわよ。もうお別れなんでしょ?」


その言葉にどうしようもなく頷いて応える。


「そう。私…何かミスした?」


「いいや。何もしていないよ。僕の問題なんだ」


「一くんの問題?」


「あぁ。実はずっと一緒に暮らしている女性がいるんだ」


「え?私達と再会する以前から?」


「違うよ。再会して少ししてからなんだ」


「じゃあ…私に魅力がなくて負けたのね…」


「そんなことは…」


「振った女を慰めないで」


「そうだね。じゃあこれでお別れだけど…」


「うん。もう何も言わないで。でもこれで終わりとは思わないから…」


彼女の後ろ髪を引かれるような最後の言葉を耳にした僕は席を立ち上がって玄関へと向かう。

そのまま歌穂の家を後にすると僕は近所のスーパーに寄って買い物をして帰宅するのであった。




水野彩が帰宅してくるまで僕は料理をして過ごしていた。

本日の祝い事を前に僕はその準備に励んでいたのだ。

深夜一時頃に水野彩は帰宅してくる。

僕は玄関に向かって彼女を出迎えた。


「おかえり」


僕の歓迎の四文字を耳にした彼女は嬉しそうな表情を浮かべてメモ用紙を見せてくる。


「ただいま」


初めて見るメモ用紙の文字を目にした僕は嬉しくて思わず破顔した。


「料理作って待っていたんだ。店の方はどうだった?」


僕の言葉に彼女は大きく頷いて問題なかったと伝えているようだった。


「お酒を飲みながら話をしよう」


彼女はそれに頷くので僕らは各々の好きなアルコールを選んで席に付いた。

乾杯をするようにグラスを合わせると僕らはアルコールを嗜んでいく。


「もう答えは分かっていると思うんだけど…」


僕の消極的な言葉に彼女は先の言葉を望んでいるようだと思った。


「うん…僕も水野さんが好きだよ…

出会った日にビビッときたんだ。

だから家に住むように言ったし…

ずっと一緒に居たいって願ったんだ…

だから…僕と付き合って欲しい…」


僕の告白に彼女は嬉しそうに微笑むとハグをしてきてくれる。

そのまま僕の耳元に口を持っていくと静かな口調で久しぶりに声を発する。


「私も…一のこと…大好き…」


その甘美な響きと声音に完全に脳はやられてしまう。

僕らはこうして本日より恋人同士になるのであった。




歯車は完全に心地の良い場所で回転し続けている。

これにて僕の恋愛物語は終了…しない…。



僕の物語は今始まったばかりなのである。

引き続き…

沢山の女性たちとのラブコメは続いていく予感がしていた。


ひとまず僕らの物語はここで幕を閉じる。

いつかまた再会することを信じて…

一旦ここで閉幕である。

               完

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

十年ぶりの再会がこんなに嬉しくないものとは…されど今でも君は昔と変わらず美しい ALC @AliceCarp

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ