第20話答えが決まりそうだった

良い雰囲気だった僕と水野彩だった。

彼女は少しだけ答えを急いでいたことだろう。

僕も関係を進めることに抵抗はなかった。

彼女とは同居生活を続けていたし交際しても特別関係に変化はないと思っていたのだ。

しかしながら僕らの関係には少しの変化が待っていたようだ。

彼女の酔った勢いでの告白に返事をせずに過ごしていた。

きっと彼女も記憶になくて忘れているだろう。

そう決めつけていたのだ。

しかしながら…

そう決めつけるには彼女の気持ちを考えてなかったことを遅れて思い知るのであった。



「私とは付き合いたくないですか?」


いつだったか水野彩は二人きりのリビングでメモ用紙を見せてくる。


「そんなことは…」


どうにか答えのような言葉を口にすると彼女は少しだけ俯きながらメモ用紙に文字を書いていく。


「でも…告白から結構な月日が流れましたよ」


「あぁー…あれは酔った勢いじゃなかったんだ?」


僕の問に彼女は大きく頷いて涙目の表情を少しだけ曇らせていた。


「ちゃんと考えるよ」


再び口を開くが彼女は寂しそうな表情のまま何も言わずに自室へと戻っていく。


(どうすれば良かったんだよ…)


脳内でその様な言葉が流れていて僕は彼女のことを本気で考えていることに気付いたのである。

しかしながら…

チャンスを逃した僕に再びチャンスが来ることはあるのか…

それはまだわからないのであった。




本日は店休日であり僕は久しぶりに歌穂の家に招待されていた。


「お邪魔します」


玄関で彼ら彼女らに挨拶をすると中へと入っていった。


「久しぶりだね。元気だった?」


歌穂は僕に伺うような言葉を口にしてきて微笑んで頷く。


「忙しかったからね。でも店休日が二日になったんだ。

だから疲労を回復する時間が増えたよ」


「店休日が増えたの?聞いてない…」


「あぁー…最近増えたんだ」


「どうして言ってくれなかったの?」


「えっと…」


「言ってくれたら…もっと会えたかもしれないのに…」


そこで僕と歌穂は少しだけ気まずい雰囲気に包まれてしまう。

だがその沈黙を破ってくれたのは子供たちだった。


「久しぶり。お母さんが寂しそうだったよ」


「爻くん。久しぶりだね。元気していた?」


「うん。でも僕は良いからお母さんと仲良くしていてよ」


「………あぁ。ゲームは楽しんでいる?」


「うん。ランキングでも上位になるほどやり込んでいるよ」


「そっか。打ち込めることが増えて良かった」


「僕のことはもう良いから。ね?」


それに頷くと僕は再び歌穂と向き合っていた。


「ごめん。もっと早く話すべきだった」


「うん…他に隠していることはない?」


「隠していること…無くはない。でも言いたくない」


「どうして…?何でも話して欲しい…」


「いいや。これは僕の問題なんだ。だから話せない」


「力になりたいの…」


「大丈夫。僕一人で解決できる」


「………わかった」


再び気まずいような雰囲気に包まれていた僕らだった。

その均衡を破ったのは再び子供たちだった。


「次のテストも満点取るから…ね…」


ミカは僕らの顔色を伺うような言葉を口にするので微笑んで頷く。


「あぁ。プレゼントを楽しみにしていてよ」


「うん。いつもありがとう」


「あぁ…」


「それで…もう少しお母さんのことも考えて欲しい」


「………わかった。善処する」


「ありがとう」


ミカは嬉しそうに微笑むとそのまま自室へと戻っていく。

残された僕と歌穂は少しだけ気まずいような雰囲気のまま時間を共にするのであった。



何も答えや解決策が見つからぬまま。

僕は歌穂の家を後にした。

そのまま帰宅した僕に水野彩は少しだけ寂しそうな表情で出迎えた。


「ただいま」


たった四文字の言葉に彼女は僕の心情を理解したようで表情を切り替えた。

そのままメモ用紙に文字を書くと僕に見せてくる。


「おかえり。何か辛いことでもあった?」


僕は水野彩に救われたような思いに駆られながら…

本日の気まずい一日の出来事を話していた。

彼女はそれを静かに聞いており…

そして最終的にこの様な言葉を文字にする。


「やっぱり私と付き合ってください。

私なら苦しく辛い思いをさせない。絶対…絶対に…」


その文字を見て…

僕は彼女ら全員と真剣に向き合わなければならないと実感する。


そして僕は…

水野彩に想いを口にするのであった。



次回。

僕は彼女らに対して答えを口にするのであった。

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