第19話今後の僕ら

「店休日を二日間にしたほうが良いと思います」


清野みやびは一週間の売上を確認していた。

続けて一ヶ月の売上を確認。

一年間の売上の確認。

全てを確認し終えた彼女は僕に少しだけ申し訳無さそうに口を開く。


「どうしてそう思うの?奇譚のない意見を聞かせて欲しい」


「はい。比較的月曜日の営業はあまり売上に貢献していません。

このグラフを見てください。

そしてこちらが光熱費の料金表で…日割りにしたものがこちらです。


月曜日だけ安定した黒字になっていないんですよ。

お客様の事を思って赤字覚悟で店を開けるというのは時代に即してないですよ。

赤字が出る可能性が高い曜日は休みにしたほうが良いと思います。


今まで通り火曜日は店休日のまま据え置きで…

月曜日も休みで良いと思います。


以上が売上などのデータを元に導き出した答えです…

どうでしょう…生意気言っていますか…?」


清野みやびの理に適った提案に僕は何度も頷いていた。


「確かに…なんとなくだけど月曜日は売上が甘い気がしていたんだよね。

奇譚のない意見をくれて本当にありがとう。

清野さんの言う通りにしてみようと思うよ。

生意気だなんて思わないよ。

僕が正直な意見を欲しがったんだから。

ありがとうね」


「はい…っ!」


清野みやびは少しだけ俯いたまま嬉しそうに返事をくれる。

事務所でやり取りを終えた僕らは店内へと戻っていく。

厨房では水野彩が仕込みをして過ごしている。


「お疲れ様。どう?」


少しだけ曖昧な言葉を投げかけてみると水野彩は嬉しそうに微笑んだ。


「ん?何かあった?」


水野彩の表情の意味がわからずに僕は首を傾げて再び問いかけてみる。

彼女は仕込みの手を止めてメモ用紙にペンを走らせていた。

その間に換気扇の下まで向かうとタバコに火を付けて彼女のことを待っていた。

深く吸い込んだ煙を体内の奥の方まで届けるとそれを全て吐き出すように大きく息を吐いた。

タバコを指に挟んだ状態でコップに氷を入れてアイスコーヒーを半分ほど入れる。

そこから牛乳を注ぐとカフェオレを作って時間を過ごしていた。


「新体制の一屋も上手く回っていきそうですね」


水野彩はメモ用紙を見せてくるので僕も数回頷く。


「そうだね。水野さんもカフェオレ飲む?」


僕の問いかけに彼女は嬉しそうに頷いた。

ホールで開店準備を行っていた清野みやびにも同様の質問をして僕は二人のカフェオレを作るのであった。



お店が開店して清野みやびは慣れた手付きで接客をしていた。

僕と水野彩は厨房で料理を作り続けていた。

清野みやびが休憩中は水野彩がホールの手伝いをしていた。

水野彩が休憩中は僕が全面的に働いている。

僕は殆ど休憩には入らない。

時折お手洗いに向かうぐらいだった。


「新しいバイトの娘も可愛いね」


常連客のおじさんは僕に世間話をするようにして話題を振ってくる。


「ですね。常連の皆さんにも気に入って貰える存在であってほしいですね」


「店長の好みで選んでいるの?」


「そんなわけ無いじゃないですか。たまたまですよ」


「たまたまきれいどころが集まったと?」


「まぁそうなりますね」


「男性が他に居ないのも偶然?」


「そうですね。個人経営の居酒屋ですからね。

求人を出さなくても行動力の高い女性がバイトとして来てくれるパターンが多いようですね」


「女性の方が行動力高いってこと?」


「全てにおいてではないですよ。

しかし最近は女性の方が行動力が高い気がしますね」


「そうか…僕も職場でそんな気がしていたよ」


「そうなんですね。何処も同じなんですかね」


「わからないが…昔と比べて女性の活躍の場が増えたのは確かだね。

しかもその場を勝ち取ったのは女性達だ。

行動力が高いと言うのはあながち間違いじゃないな」


「ですね。自分たちで自分たちの居場所を拡大する姿勢は素直に尊敬できますね」


「だな。厨房に女性が立っている光景も一昔前なら無かった」


「ですね。これも女性が自ら勝ち取った居場所です」


「そうだな。それにしても店長は女性贔屓か?」


「もちろんです。僕は女性が好きですから」


「ははっ。意外とむっつりなんだな」


「かもしれません」


そんな他愛のない会話を繰り返して僕は常連客と話を進めていた。

僕のとなりでメモ用紙に何やら記入している水野彩だった。

彼女は僕の服の袖をくいっと引っ張るとメモ用紙を見るように指示していた。


「店長は女好き?私以外の女も好きなの?」


そんな僕らの関係に変化が訪れてしまいそうな質問を目にして僕は咳払いをしてごまかした。


「お手洗いに行ってくる」


逃げるようにしてお手洗いに向かった僕は今後の事を考えていた。

このまま水野彩と一緒になる未来や他の女性との未来を想像していた。

しかしながら不義理な気がした僕は考え事を放棄して厨房に戻った。


「女好きじゃないよ」


厨房に戻った僕は水野彩に静かに答えを口にしていた。

彼女は再びメモ用紙に書き込みをすると僕に見せてくる。


「答えになってない。私のこと好き?」


今日はやけに積極的な水野彩のことを少しだけ疑問に思っていた。

彼女の顔を見ると少しだけ赤いような気がしていた。

水野彩はアルコールではあまり酔った姿を見せない。

今日彼女が口にしたものを思い出していると…


「カフェオレで酔った?」


水野彩に問いかけてみるが彼女は必死で首を左右に振っている。

僕はなんとなく答えに気付いて苦笑する。


「少し休憩してきな」


彼女は苦い表情を浮かべて仕方なさそうに事務所の方へと向かう。

残された僕らはそこからも業務に従事するのであった。




閉店作業を行った僕らは帰宅している。

清野みやびは二十三時にバイトを終えて帰宅していた。

僕と水野彩は揃って帰宅する。

また今日も僕と水野彩は少しだけ特別な二人だけのコミュニケーションを取りながらしばらくお酒を飲んで過ごしていた。


「それで…さっきの答えを聞きたい…」


水野彩は酔っているわけではないようで…

彼女は今日僕との関係を進めようとしていることが理解できて…

答えを口にしようとした瞬間…

水野彩はソファに横になってそのまま寝落ちしてしまっていた。

彼女に布団をかけると僕は自室に戻っていく。



そして僕は真剣に彼女らとの関係を進めようと思うのであった。

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