そんな経緯があって、今は彼女が退勤してくるのを待っているところなのだ。午前中の間に彼女のことをあれこれ調べ、職場から2駅先で行われているフェイクフェイスの臨時ショップに行く可能性があることに賭けた。私は仕事においての運がいいので、こういう時の賭けは大体成功すると分かっている。今回も成功した。ついでに彼女に盗聴器を仕掛けることもね。


「お待たせしました!えぇっと、」

「お疲れ様です。まだ自己紹介もまだでしたね、私サクラって言いますっ」

「あっ、私はマナです。よろしくお願いしますっ。さっきは突然声かけちゃってすみませんでした…」

「全然!私も1人で行くの心細かったので、嬉しかったです。時間も時間ですし、早速行きましょうか?」

「はい!」

 マナは根っからの良い人だった。少し警戒心が足りないのか、さっき出会ったばかりの私が聞いたことすべてに答えてくれる。どの返答にもうその響きはなかったので、私もそこそこに彼女を信じることにした。

 

「うわぁ…やっぱり人多いですね、」

「本当ね。マナさんがいてくれてよかった、私1人じゃ入るかどうか悩んでたかもしれない」

「私もです!ねっ、入りましょ?」

「そうねっ」

 店内はそれほど広くないが、若い女子がわんさかいる。名前は知っていたけれどちゃんと知ったのは今日が初めて。午前中で頭に詰め込んだオタク知識をしっかりと発揮していく。

「マナさんは誰推しなんですか?」

「ん~…箱推しなんですけど、強いて言えばりっ君ですね。サクラさんは?」

「私はレン君かな」

 誰でもよかったけどこの人を選んだ理由は、ラオに顔が似ていたから。そっくりという訳ではないけど、どことなく雰囲気が似ていて私好みの顔。



「…なんか楽しくてついつい買っちゃいました」

「ふふっ、お見せできそうですね」

 マナは両手に紙袋をもってレジを出て来た。私も怪しまれないように何点か買い込んでみたが、思っていたよりも楽しいかも。

「マナさんどっちの方向に向かって帰るんですか?私○○の方まで帰るんですけど」

「私もです!えっ、凄い近くだったんですね!なんか嬉しいっ」

 ここまでくれば心を開いてもらうのは簡単な話。帰りの電車の中でも色々な話を吹っかけてみた結果、かなりいい方向に話を持っていけた。


「今日はありがとうございました!」

「こちらこそっ、とっても楽しかったです!また来週楽しみにしてますね」

「はい!」

 連絡先を交換し、来週会う約束まで取り付けた。駅まで迎えに来てくれるらしので、そのまま分かれた。近くに停めておいた車に乗ってそのまま家に帰る。朝が早かったこともあって結構疲れていたが、今日は少し楽しかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る