「主人のジャケットからこんなのが落ちたことがあって…咄嗟に写真を撮って元に戻したんですけど、昨日言いそびれてしまって」
依頼を申し込まれた日、何かを思い出したようで、葉山さんは再び事務所を訪れある写真を渡してきた。
物件情報。彼女の手で押さえられた三つ折りの紙には、マンション名や間取り、家賃などが細かく書かれていた。
これは完全に、内検書類だ。マンション名に赤丸が付けられているのを見ると、誰かしらがこの家へ住むのを決めたように思える。ん~どうしようかな。色々方法はあるけれど…
ここは、私のお得意技を使おうかな。
夫の1週間のスケジュールはあらかじめ聞いていたが、これのどこまでが本当なのか。とりあえず今日からは出張みたいなので、朝自宅を出る瞬間から尾行開始。ちゃんとキャリーケースは持ってきているみたいだけど、
「…やっぱりそうよね」
駅に着いたかと思えば、そのままコインロッカーにキャリーケースを押し込み、職場である出版社に入っていった。姿が見えなくなったところでイヤホンを装着した。葉山さんに渡しておいた超薄型の盗聴発信機。ワイシャツの襟に入れ込めばまず見つかることはないので、彼女にお願いしておいたのだ。かなりの優れもので、ある程度離れても音声が聞こえるので、近くの喫茶店を転々としながら仕事をすることにした。
「すみません、紅茶とサンドウィッチお願いします」
当たり前ながら、会社にいるときに怪しい動きをする訳もなく、とりあえず自分の仕事に没頭した。デジタルでの情報収集はあまり得意ではないが、それなりに良い情報を手に入れた。そして喫茶店を3件ほど渡り歩いたころ、夫の仕事に終わりが見えたので、急いで残りのホットコーヒーを飲み干し、職場の前まで戻った。10分程近くのコンビニ待っていると、同僚らしき人たちにお疲れと声を掛けているのが耳に入ったので正面玄関の近くまで行くと、仕事を終えた葉山さんの夫が出て来た。私の感がただしければ、今から向かう場所は…
「…ビンゴ~」
彼がたどり着いたのは、あのジャケットから落ちた物件情報のマンションだった。
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