お腹の減った私たちは、美味しそうな料理を前に喋っていられなかった。

「ん!これ美味しい!…よこわマグロって何かの子供でしたよね?」

「おっ、よくご存じで。クロマグロですね。今日のは臭みも少なくて、結構いけるでしょ?」

「めっちゃ美味しい…えっ、リンちゃんこのじゃがいも食べて⁉」

「…お酒が足りない」

 じゃがいもと人参の明太子チーズ焼き。これはお酒の飲みにはたまらない料理。ガレットのように形を整えられていて、明太子とチーズの塩味、ジャガイモのホクホクさがたまらなく美味しい。もはや高級料理を食べているかと錯覚しそうなくらい美味しい。リンちゃんは難しい銘柄の日本酒を頼んでいた。彼女は日本酒が大好きだ。

「大将、何か野菜系も貰えますか?」

「野菜ですね、分かりました」

 最後のチーズ焼きを日本酒で流し込んだリンちゃんは先ほどの話へ戻った。

「私ばっかり愚痴ってるけど、サクラは悩みとかないの?」

「悩みかぁ…」

 ラオは馬鹿だしヤバいほどの包丁オタクだけど、周りからも驚かれるくらいに人が良い。殺し屋特有の禍々しさを微塵も感じさせないし、うちの親も気づいていない。そして、私のことが大好きすぎる。そう考えると、

「…ないかも」

「えっ、1つも?」

「うん…無理やり作り出すとするなら、休みが中々合わないことぐらいかな」

「まぁ、急な呼び出しも多いって言ってたもんね。でも、そっかぁ…ますます羨ましいよ。えっ、めっちゃいい匂いする…」

「お待たせしました~太刀魚のから揚げです。こちらのソースをお好みで。で、こちらが和風シーザーサラダです」

 大将が運んできた太刀魚のから揚げ。隣には山葵マヨネーズが添えられていて、見た目だけでビールが進む。

「うっわうんまぁ…大将これヤバいです、」

「ありがとうございます。太刀魚は小骨も気にならないし、臭みも少ないし、中々美味しいでしょう?」

「すっごい美味しいです」

 太刀魚がこんなにもフワフワで旨味のある魚なんて知らなかった…薄い衣でサクッとしたら、中からふっくらしっとりした身が出てくる。調味料は何を使っているのか全く分からないけどとにかく美味しい。

「太刀魚って来週もありますか?」

「大雨でない限り、無くはないと思いますよ。予約していただけましたらご用意しておきますが」

「本当ですか?…えっと、来週の金曜日、ラオと来ます」

「分かりました、ご用意いたします」

 どうやらこの前ラオはここで食べたカマスが気に入ったらしく、私に食べさせるために連れて来てくれたのだそうだ。私もこの太刀魚を食べてもらいたい。

「あんたたち、本当に仲良しね…私たちも見習わないとっ」

「恋愛は人それぞれだからね。合う合わないがあるよ」




”来週の金曜、夜ご飯食べに行こ”

”いいよ!死ぬ気で帰ってくる”



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