まながつおと探偵

「うっわ…あのバカ…」

 休み明けの朝、出勤前にシャワーを浴びるとあらわになった体中の赤い花。久しぶりに会うといつもこうなる。彼氏のラオにかれこれ2週間はあっていなかったので、まぁしょうがないっちゃしょうがないし、私も悪い気はしないし…?ちゃんと服で隠れる範囲にしてるところを見ると思わず笑ってしまった。

 ラオは先に仕事に行ったのでもう部屋にはいなかったが、

”体中にキスマーク付けてごめんなさい。さっき気づきました”

 なんて謝罪のメッセージが送られてきた。無意識だったらしい…

 さてと、私もそろそろ仕事に行かないと。



 私の勤める探偵会社はいつ出社してもいいしいつ帰ってもいい。働けばその分給料が増えるし最小限しか働かなかったらその分しか。完全に歩合制なのだ。まぁ私はそれなりにお金も欲しいからしっかり働きますけど。

「おはようございまーす」

「おはようサクラさん。相変わらず君しかこの時間に出勤してこないね」

「その方が私も稼げるんでありがたいですよっ。なんか依頼ないですか?私今日事務作業しかないんですけど」

「おっ、じゃあこのどれか任せていい?」

 3つの案件から選んでいいとの事だったので、私の得意分野をもらう事にした。朝早く来ると、自分のしたい仕事を選べるという利点があるのだ。

「この浮気調査貰っていきまーす」

「よろしく~」

 私の得意分野は、浮気調査だ。他にも企業からの調査依頼なども苦手ではないが、主に請け負っているのはドロドロの人間関係。




「…失礼します。あの、予約していた葉山です、」

「あ、お待ちしておりました。担当の木南です。こちらへどうぞ」

 依頼人の女性がオフィスに到着した。どこか疲れきったような雰囲気を漂わせながらも綺麗を保っている彼女からの依頼は、有名会社のお偉いさんである夫の浮気調査だ。

「では改めまして、担当の木南と申します。よろしくお願いいたします」

「…よろしくお願いします」

「今回のご依頼、ご主人の浮気調査という事でしたが…少し詳しくお聞かせ願えますか

?」

「あ、はい。えっと…何から話せば…」

 初めて来る探偵事務所に緊張気味の彼女を落ち着かせるために、香りのいい紅茶を入れる。

「ゆっくりで構いません。ではまず、ご主人のお仕事などお聞きしていいですか?」

「はい。夫は大手出版社の幹部でして、普段から出張の多い仕事なんです。なので、家に数日居なくても特に気にしていなかったんですが…」

「何か、気になる事があったんですね」

「えぇ…まぁ何がどうって証拠はないのですが、女の感なんでしょうね。夜を避けられるのは娘が生まれてからなのですが、短い出張がかなり増えたり、わざわざその場所のお土産を買ってきたり…今までそんなことなかったんです。それと…お風呂に入るとき、私にばれない様に鞄や携帯を脱衣所まで持っていくんです。それが何だと言われたら分からないのですが…」

 女の感とやらはかなり当たる。彼女は見て見ぬふりを押し通そうとしているみたいだけど、これはどう見ても黒だよ。私は嘘を見抜、聞き分ける能力にたけているので、ご主人に会えば一瞬で分かるだろう。


 …そう思ったら、ラオって馬鹿正直なんだね。私が嘘を感じない男はラオくらい。


「なるほど。事情は分かりました…もし、奥様の考えていることが事実だとしたら、どうしたいですか?」

「どう、したいとは…」

「証拠を集めるだけ集めて後はご自身で考えるとか、ご主人と不倫相手に慰謝料を請求するとか、別れさせて夫婦仲の改善をしたいとか…あとは、2人に復習したいとか」

「復習、ですか?」

 復習という言葉を聞いたとき、明らかに彼女の表情が強張った。まぁ。そんな物騒な言葉を日常で使う事などないし、しょうがない。

「あ、そんな危ない事はしないですよ?私はこの探偵事務所の中でもオプションを扱う人員なんです。もしご要望ならば、言ってください」

「はぁ…」

「で、どうされますか?とりあえず調査だけにしておきますか?」

「…そうですね、その結果を聞いてから、また考えさせてもらいます」

「分かりました。調査には大体2週間ほどお時間をいただきます。調査料だけでしたら、サイトに書いてある料金のみとなります」

「はい、お持ちしてます。どうぞ、よろしくお願いいたします」

 彼女は依頼料をしっかりおいて、事務所から出て行った。また考えると言っていたけど、私の目を信じるなら、


 彼女は復習を選ぶ。


「それから、これをお渡ししておきます」




「仕事取って来たかい?」

「はーいもちろん。私を誰だと思ってんですか」

「そうだったね、うちのエースさん」

 自分で言うのもなんだけど、探偵の腕はそれなりの物。私に依頼をして後悔はさせない。

 さて、色々調べ物はじめるとしますか。


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