「いらっしゃいませ、フジさんお久しぶりです」

「どうもどうも、いやぁありがたいことに忙しくてですね。今日は何がおすすめっすか?」

「今日は鮎なんてどうですか?酢の物に塩焼き、フライ、田楽、甘露煮があります」

「おっ、良いっすね。じゃあ塩焼きと甘露煮お願いします。あとは…食事系以外で貰おうかな。生ビールも」

「あいよっ」

 フジさんは、食事をしに来る時とお酒をメインで飲みに来る時がある。今日は後者のようだ。

「お先に生ビールときゅうりの浅漬け、しぐれ煮と海ブドウでございます」

「海ブドウ!ひっさびさに食べるなぁ。いただきます」

 私はどうも海ブドウが得意ではないが、うちが仕入れている物はどうやら美味しいらしい。フジさんの酒の肴には良く合ったようだ。そして彼はとてつもなくきゅうりを好む。

「甘露煮お持ちしました~」

「うっわ美味そう…」

 まだ子は入っていないが、味には自信がある。なんせ開店前に2匹も平らげてしまったくらいだ、まだ見るだけでよだれが出そうになる。

「うっま!いや今まで食べた甘露煮の中でも断トツですよこれ、」

「ありがとうございます」

 口にあった様で声を漏らしながらビールと一緒に流し込んでいる。

「塩焼きお待たせです。頭に脂を下ろして焼き上げたのでカリカリですよ。しっぽまで全部行けますよ」

「凄い脂っすね…。俺頭は好きなんっすけど、内臓と骨がどうも苦手なんすよ。これって綺麗に取れないもんですか?」

 鮎は最後に頭を下にして焼き上げると、胴体の脂が頭に回って揚げたようになる。これがまた旨いんだ。内臓まで美味しく食べれる魚だ、頭までうまく食べてもらいたい。まぁでも、苦手な人の方が多いだろう。

「面白いくらいに綺麗に取れる方法がありますよ?ヒレと尻尾を全部取って、背中の方から箸で全体的に押してあげるんです。頭の付け根の身を切り離して頭を引っ張ったら肋骨が内臓を包んだまま綺麗に出てきますよ」

「へぇ…箸で押して…うわ!すげぇ…」

「上手く行きましたね、小骨も残っていないはずなんで、かぶりつけます。塩味足らなかったら横に柚子塩ありますので、そちら付けてお召し上がりください」

「…美味い…大将って、本当何者なんっすか?なんか、料理の知識以外にも色々詳しそう」

「いやいや、私は料理に関することしかしてこなかったので。そのほかのことは小学生の方が賢いかと」

 そう、俺は”料理に関すること”しかしてこなかった。

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