鰻と料理人
「いやぁ今日も暑いっすねナカマさん」
「本当ですよ、こんな陽気じゃ魚の保管も大変でしょう?」
「氷が溶けて溶けて…はい、これで全部だね」
「いつもありがとうございます。ではまた明日っ」
朝1番で市場へ行き、良くしてもらっている仲卸業者から必要なものたちを仕入れて来た。前々から予約はしていたのだが、年々入手が難しくなっている鰻。本日は土用の丑の日なので、生きた鰻とすでに調理されて真空パックにされた鰻を両方仕入れて来た。毎年この日だけは予約のみの営業にしてる。鰻の入手が難しくなっていくのに対して、予約のお客さんは増えていくので中々困ったものだ。
でもメニューが決まったものだけなので、準備さえできてしまえば案外楽だったりもする。
・うざく
・うまき
・茶碗蒸し
・うな丼
・ひつまぶし
・白焼き
・しぐれ煮
予約だけだとは言ってもそれなりの量があるし、昼の営業もあるのでさっさと仕込んでしまわないといけない。
黙々と作業をするのは好きだ。だから師匠が引退して1人になった今もとくに苦はない。大変なことと言えば、ありがたいことに最近新しいお客さんが増えて、名前と顔を覚える事だろうか。もう年も年だ。記憶力に自信もなくなってきているし、そろそろ俺も新しい弟子を雇う頃合いかなぁ…
「失礼しまーす。ナカマさんこんにちは!」
「おぉどうもどうも。今日量が多いから入りきらないでしょ、通路のところに置いといてもらって大丈夫だから!」
「了解ですっ。今日は大忙しの日ですね」
「まぁねぇ。これを乗り切れば少しは落ち着くし、頑張るよ。はいこれ、明日もよろしくね」
「おっ、あざっす!じゃあまた明日きます!」
うちに降ろしてくれている酒屋さんだ。若い兄ちゃんだが愛想がよく、うちみたいな薄暗いお店にも他と変わらずいい酒を売ってくれる。少しばかりのお礼で、毎日昼ご飯用のおにぎりを渡しているのだ。まぁ軽い口止め料みたいなもんだな。
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