① お客様同士でのトラブルは控えていただくようお願い致します。


 ナカマ食堂のルール上、お互いに殺し屋から狙われることも、探偵から探られることもないのだ。危険な仕事をしている俺たちにとって、ここに客としてくることは安心材料にもなっているのだ。サクラにもしものことがあったら、俺は自分がどうなるか…考えたくもない。


「まず先にバイ貝の旨煮ですね~。でこちらがサザエとホタテ、剣先イカ、平鯵、石鯛のお造りです」

「うわぁめっちゃおいしそう!この白身が石鯛…?ってどんな奴だっけ、」

「黒い奴でしたよね?」

「そうです、これが石鯛です」

 大将がまだ捌いていない丸の石鯛を見せてくれた。幅のある黒い縦じまの魚だ。

「今の時期石鯛が脂乘ってて旨いんですよ。皮を引くときも脂で手が滑って中々上手く行かないくらいにはあります」

「初めて食べるな…いただきます」

「いただきます!」

 サクラはすかさずバイ貝を手に取っていたが、俺は石鯛が気になっていたので、さっそく手を伸ばした。

「うわぁこれすっごい美味しいよ、」

「マジ?俺は石鯛食べよっと…っ!?すげぇこれ…確かに脂は凄いっすけど、歯ごたえも凄い」

 コリコリというのか、パリパリというのか…とにかく良い歯ごたえだ。醤油をつけてもはじかれるこの凄い量の脂。天然ものならではのくどくない脂でめちゃくちゃ美味い。次の隣にあった平鯵に生姜を乗せて食べる。

「…美味い」

 思っていたよりも生臭くなくて、身もしっかりしている。脂があるかどうかは分からないが、とりあえず美味い。生姜との相性が何ともいい。

「へぇっ、剣先イカ、でしたっけ?めちゃくちゃ美味いっすね、」

「どれもお口にあった様で良かったです。今の時期の剣先イカは身が分厚くて、甘いんです。この塩とレモンで1度食べてみてください」

 醤油の隣に置かれていた塩にレモンをかけ、剣先イカにつけて食べる。

「…サクラ今すぐにこれを食べろめちゃくちゃ美味いよ、」

「そんなに美味しいの?」

 粗塩のジャリっとした粒を噛むと広がるイカならではの甘味。トロッとしていながらパリッとした歯ごたえがあって、レモンとの相性も最高に良い。

「うっわなにこれ…ビールめっちゃ進んじゃうんだけど…大将もう1杯お願いしま~す」

「あいよっ」

 味の濃いバイ貝の旨煮と造りの盛り合わせを前にビールが止まらなくなっているサクラ。一緒に外食するのも久しぶりだし、明日も休みだ。たまにはいいだろう。

「お待たせしました~、カマスの干物と鱧の湯引きです。カマスはそのままで十分美味いんですが、染めおろしとスダチをつけていますので、お好みで。鱧は酢味噌と梅肉醤油でお召し上がりください。あとはいつものしぐれ煮と赤だし、本日はトウモロコシご飯です」

「めっちゃいい匂い…」

 カマスから漂う香ばしい焦げ目の香りが何とも食欲をそそられる。この前ナカマ食堂に来た時から、ずっとこれが食べたかったのだ。

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