「ね、大将もこう言ってますし、だまされたと思ってしぐれ煮を乗っけてみてください」

 俺が勧めると、ジョーさんは渋々しぐれ煮をトウモロコシに乗せて口に運んだ。

「…美味い」

「でしょ?」

 ナカマ食堂の魚料理はこの世で1番美味いと思っているが、ここに来る客は皆しぐれにも大好物なのだ。俺は毎回ここに来ると、このしぐれ煮の新たな食べ方を模索しているのである。今日はトウモロコシの天ぷらがノミネートされた。

「大将、今日も美味しかったです」

「マジ美味かったっす!カマスって、2週間後とかに来てもまだありますか?」

「大雨の翌日とかでなければあると思いますよ。そのころには干物も食べられるようになってますので」

「やったぁ。今日は包丁研いでいかなくて大丈夫っすか?」

 俺はたまに、大将の包丁を研がせてもらっている。俺が普段使っているのは柳包丁だけなのだが、料理人の使うものには出刃包丁や牛刀、ペティナイフや薄刃包丁と多様で面白いのだ。

「お願いしたいところだったんですけど、ちょうどさっき営業前に研ぎ直したとこなんですよ。この間研いでいただいた奴、凄かったですよ⁉出刃で魚卸して頭を半分にしようと叩いたらまな板も切れちゃいました…流石です」

「…お前、殺人用と料理用の包丁を同じ研ぎ方するなよ。銃弾切れるような包丁で料理なんかしてみろ、調理台まで貫通すんじゃねぇか」

「あはは…すみません」

「いえいえ、面白かったですよ?」

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