①お客様同士でのトラブルは控えていただくようお願い致します。



 店の約束は必ず守らないといけない。トラブルなのかと言われたら…ただの仕事なのだが、グレーゾーンなことはなるべく避けて通りたいものだ。

 このスーツの殺し屋である男、サンジさんは、福原修二が所属していた殺し屋組織の上層部だ。まだ若手であった福原修二は先輩たちに連れられてよくこの店にも顔を出していたのだった。1度サンジさん経由で言葉を交わしたこともある。筋肉質で、服装も見た目もサンジさんとは正反対の印象だった。素行の悪いところもあったという母親の証言にもう頷けるような見た目をしていた。

「修二の死に方に疑問を持たれたか…さすがは母親だな。女の感というものはかなり頼りになる。まぁ今はと言えば厄介この上ないのですが…こちらとしてはかなり気を付けて偽装工作をしたつもりだったんですがね。現に警察も気づいていないでしょう?」

「そうですね、再捜査の予兆もありませんし、親が息子の死をまともに受け入れられないのは当たり前のことですから、特に気にしていないのでしょう…殺した、始末した理由は何だったのかお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「…あなたの口が堅い事とこの店のルールを信用してお話ししますが。ある依頼の助手として修二をついていかせたことがありましてね…あいつは真面目過ぎて臆病すぎた。それが引き金でうちの後輩が1人亡くなったんです。このままでは組織までもが危うくなる所だったので、私は他の連中を守るために行動したまでです。これに関してはうちの組織の長も納得しております」

 まぁ…おおよそ考えてはいた事だったが、福原修二は要するに殺し屋には不向きだったのだろう。甘い世界では決してないこの業界、小遣い稼ぎ程度の気持ちで踏み入ってはいけないのだ。


 ただサンジさんの偽装には少し詰めが甘かった。殺し屋の常識がどうなっているのかは知らないし知りたくもないが、薬物の流通は一般人よりはるかに多いだろう。それでも、薬物に対してひどく嫌悪感を抱いていたという福原修二にオーバードーズを利用した殺し方を使うのは、彼をよく知る人物からすれば不自然すぎる。彼が殺し屋に不向きだったように、彼を殺すために薬物中毒を用いるのも不向きだったのだ。

「まぁそんなとこなのだが…さすがに事実をそのまま報告したりしないですよね?」

「えぇ。かなり不本意ではありますが、ルールですので。頑張って偽の証拠でもかき集めるとしますよ…すみませんお食事中に。ありがとうございました」

「なんか申し訳ないですな。お詫びに夕食ご馳走しますよ。殺し屋を目の前に食事なんて食欲湧かないかもしれませんが、今日はめちゃめちゃうまい鯛が入ってるらしいんですよ。俺も今用意してもらってるとこなんで、良ければご一緒にどうですか?」

 確かに殺し屋と食事なんざ嬉しくないが…店に入った時から香るだしの香りにはずっと気をひかれていた。究極の選択…だが食欲には勝てない。

「…では、お言葉に甘えて」

「よし。大将!コウさんにも俺と同じものお願いするよ」

「あいよっ」

 大将はこうなることを予想していたかのように、数分で俺の料理も含めて運んできた。

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