翌日、いつもナカマ食堂へ行く時間よりも幾分か遅く事務所を出た。大分昼間が長くなってきたとはいえ、地下道に入ってしまえば昼も夜も構わず薄暗い。さぁて、嫌な仕事をして、旨い飯をまずく食べる時間だ。

「いらっしゃい。あら、こんな時間に珍しいですね」

「どうも。今日は別件の用事もあって」

 目当ての人物の方へ1度目線を向けると、大将は察したらしく、いつものご用意いたします。と目礼した。

「お食事中失礼します」

「んぇ?…あ、コウさんか。珍しいな話しかけてくるなんて」

「そりゃああまり関りを持っちゃいけない職業柄なんでね。今日は例外ですけど」

 目の前にいるこの男。三つ揃いのスーツを着てフチなしメガネをかけ、きちんとセットされた髪を見ると、どこかの弁護士のようにも見えるこの好青年。


 殺し屋なんだけどね。


「どうかしましたか?」

 彼の隣の席に腰を掛けると、大将がジンジャーエールとつまみを何点か持ってきてくれた。俺がここに仕事をしに来るときは気を使って、ノンアルコールを出してくれる。よくできた料理人さんだよ。

「ある死亡事故の遺族から依頼がありまして。死因に納得がいかないが警察は一度結論づいた事故を中々再捜査はしてくれない。とよくある事なのですが、問題はその人物です。心当たりはありますか?」

「心当たりと言われても…ありすぎてどれか分かんねぇんだよね」

「…繁盛しているようで。」

 殺し屋が繁盛する世の中は決していいものではないのだがな…

「福原修二。と聞いたら分かりますか?」

「…修二の事か。確か家族は母親だけでしたよね?」

「はい。先日お母さまからご依頼をいただいたんですが…名前と写真を見た時に、嘘をつかないといけないが見えたわけですよ。でも確認しないわけにはいかないので、今日お伺いしたまでです」

 探偵と殺し屋。普通なら報告書をまとめて知り合いの刑事にでも持っていけばいいのだが、このナカマ食堂には守らなければいけないルールがある。

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