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IIS管制センターを後にして、タクシーに乗り込みテクネを先技研まで送る。
気づけば
車窓の夕暮れが眩しい。
何故か僕に貼り付けられていたお札は何十年も天日干しされたかのように色
「そういえば先生、自宅は?」
「んー? 一応事件前から住んでいるマンションのままになっているよ。あれから建物ごと買い取ったけど、ずっと放置だね。今は研究所にベッドもお風呂もあるから、帰らずにそっちに住んでる」
彼女が一人で家事をして暮らしているイメージはできなかったが、研究所に籠って日夜作業してるのはすぐに想像できた。
「……なあ、先生は確かに透明人間の秘密を暴いてくれた。だけど、言葉で説明できたとしても実際にできるという確証までは得られていない。捜査や対策を続行する上でも、透明人間の実証をして欲しい。お願いします」
僕は頭を下げる。これ以上事件が連続するのは御免だ。
「……いいけどさ、実はあんまり乗り気じゃないんだよね」
「どうして?」
茜色に照らされるテクネの表情が怪しく、そして寂しそうに笑う。
「――だって、ボクが犯人だから」
「え?」
突然、タクシーが前触れもなく停車する。
『内部システムのエラーが発生しました。緊急規定に基づき車両を停車します。代替車両を手配しますか?』
聞き慣れたアナウンスだ。僕の動揺を読み取ったのか、タイミングが良すぎる。特に指示を出せず、車内に二人残ったまま。僕はただ、次の言葉を待つしかなかった。静寂が場を制圧する。唾を飲み込む。
「……なーんてね、ビックリした?」
「冗談はやめてくれ……」
「それが、半分冗談でもないかもしれない」
テクネの表情はくだけたかと思えば、また真顔になる。
「どういうことだ?」
「透明人間のトリックの元になったであろう広告ブロッカーの仕組みは、ボクが開発したものだからね」
地頭の良さもあるだろうが、どうにもスラスラと謎を解いていく理由がわかった。ハログラム関連以外にもヘルメス判定やハッキングなど、彼女の万能性を考えればもう驚くほうが少ない。
「ここで問題。銃弾を撃ち込まれた死体があったとして、犯人として怪しいのはどんな人でしょうか?」
「そりゃ、銃を持ってる人間だ」
「その通り。凶器を持ってる人物が一番怪しいよね。動機なんて後で調べればいい」
テクネが何を言いたいのか、察した。データだけで判断するなら、彼女は父親殺しの疑いで執行猶予付きの判決を受けている危険人物だ。そしてハログラムの天才エンジニアであり、透明人間を可能にできると思われる逸材。
「ボクを逮捕するかい? その腰に隠しているナックルスコーカーで無理矢理にでも気絶させて」
バレていたか。そして、狩井さんが僕に物騒なブツを持たせたワケを思い知らされる。
試すような、諦めたような彼女の視線が僕を射抜く。
――失望しないでくれ、僕は公安情報庁の人間だ。
「……僕たち調査官に逮捕権はない。そして、君が純粋な捜査協力者であることを証明するのが、僕の仕事だ。改めて、手伝って欲しい」
僕はテクネに手を差し出す。
「ふーん、せいぜい後悔しないことだね」
彼女はその手を静かに握ってくれた。小さくて白くて、少し冷たい指先。雪のように溶けてしまいそうだった。
「よろしく頼むよ。オモチャくん」
年相応の微笑みを見せるテクネは、再会して初めて人間味のある柔らかい表情を見せた。けっこう仲良くなれたんじゃないだろうか。おっと、そんなに顔を寄せられると照れるやい。
「ところで、人間を一切外部情報のない部屋に閉じ込めて精神が何時間持つのか興味あるんだけど――」
訂正、彼女のアプローチは歪んでいる。事件解決まで僕の身体とメンタルは持つのだろうか?
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