三章:魔女
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淡海府の保護観察所は司法省繋がりということで同じビルの三階に置かれていた。
僕の母より少し若いくらいの年齢か、おっとりした口調だが話の内容は
テクネとの面会前に、彼女の様子や注意すべきことなどを伺う。
「
「そんな……!」
彼女の幼少期の記憶から忘れられていることは覚悟していたが時間が経てば思い出してくれるだろうと、どこか楽観的に構えていたところもあるので動揺した。
ショックによる記憶の封印ということは、思い出したくても無理やりフタがされているのでは。僕のほうから会わなくなったのだから、自業自得とも言えるだろう。
しかし、それでも面会できるというのは一体……?
「もしかしたら、彼女は過去と向かい合う決心をしたのかもしれません。事件以前の知り合いは、ほぼいませんし、これまで私たちが尋ねてみても不機嫌な態度になったり取り乱すだけでした。自分の過去を知る人から話を聞いて、ライフヒストリーを再構築することで自信を取り戻したいという思いがあるのかと」
「なるほど。事件自体については触れないほうが良いですか?」
「向こうが話し始めるのを待ってあげてください。それぞれのタイミングがあります。今日は私も同行するので、錯乱などする場合になったらすぐに面会は中断します。もう自殺は考えてないと思いますが……」
会話については、けっこう慎重に言葉を選ばないといけないのだろうな。気を引き締める。
「例えばハログラムについての質疑だったり、最近話題の透明人間について聞くのは?」
「ハログラムについては問題ないでしょう。今も多くの開発に取り組んでいますし。透明人間の事件については、そうですね、人の死が関わることなので反応が悪かったら話を変えましょうか」
「わかりました」
小原さんは手元のハログラムに新しいメッセージの通知を確認する。
「あ、彼女から返信ありました。今から研究所のほうへ伺って良いそうです。じゃあ行きましょうか」
「よろしくお願いします」
立ち上がって移動を始める。小原さんは扉を開けようとして一瞬立ち止り、こちらに振り返った。
「念のため忠告しておきますが、彼女は【魔女】です」
「はい?」
「あの子なりの挨拶ですが、独特です。私も最初にあの悪夢を見せられて、なんとか耐えられましたが、やはり苦しかった。これまで無理強いしてでも彼女に会おうとした人たちもいました。どうなったか、わかります? ……だから、彼女が会わないというより、彼女に会いたくない人が多いんです」
急に、抽象的で要領を得ない話をされる。何を警告しているのだろうか。
「どういうことですか?」
「脳を焼かれないように要注意ってことです。会えばわかりますよ」
小原さんの目は笑っていなかった。冗談ではない。
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