【淡海連続不審死事件調査資料:抜粋】

影佐カゲサ事件

 ※※※※年三月二十九日十四時頃、影佐ヒラナリ(31)が淡海府おうみふ西区の建設中ビル六階の作業場から転落死した。日雇い労働者である影佐は資材運搬のために作業用足場を移動していたところ、落下防止柵を突き破り、真下の歩行者道路まで落ち、脳出血と頚椎骨折が致命傷となった。柵については胸の高さ・腰の高さ・足首の高さの位置に計三本の横軸鉄パイプが備えられていたものの、支柱と繋がる溶接箇所が風雨により耐久性が著しく劣化しており、衝撃で破損したものと思われる。

 影佐には病気や怪我もないことから足を滑らせたとは思えず、自殺を想起させるような精神面の不調な素振りも見られなかった。勤務態度は黙々と真面目に作業をこなしており、当日は睡眠不足や酒気帯びな様子も確認されていない。偶然にも落下する直前の様子を目撃した現場監督は『誰かに突き飛ばされたような動きだった』と証言する。それも現場にいた複数作業者が同じことを述べているが、現場に該当する人物は確認されなかったため警察は過失事故として処理をした。検死結果で体の各部に強く掴まれたような内出血の痕が報告されたが、地面との衝突によるものとして無視されていた。

 後に確認された路上ライブカメラ映像の片隅に落下する影佐が写り込んでおり、背面から足場外側へかなりの勢いをつけて飛び出すという不可解なものだった。


藤原フジワラ事件

 ※※※※年四月十日二十二時頃、藤原アケハル(45)が淡海府北区の縦貫幹線道路高架下にて何者かに刺殺された。防犯カメラには、週三日出向く倉庫内ピッキングのアルバイトを終えて徒歩で帰宅する藤原が突然首元押さえてその場に倒れ込み、折りたたみナイフが深く突き刺さった首元から大量出血してる状況が記録されている。頸動脈と気管の損傷による出血性ショックにより死亡。藤原の前二十メートルほど離れた位置と後ろ十メートルほど離れた位置にそれぞれ通行人が一人ずつおり、藤原が短い叫び声と共に倒れ地面に血液が垂れていることから異変に気付き、駆け付けて状態を確認すると警察へ通報する。刺された瞬間は目撃しておらず、二人に不審な動きもなかった。

 明らかな傷害致死事件として警察は捜査を開始する。しかしカメラの記録映像や目撃者の証言から犯人は確認できず、かと言って藤原個人が突然自殺するような背景もなかった。犯行に使われたナイフは新品で、手軽なキャンプ用品として大量生産されており、全国どこでも販売され容易に入手できるものである。これまでの電子決済による購入者情報だけでも一万件を超え、そこから譲渡されたともなれば犯人を割り出すのは不可能である。指紋や皮脂付着など犯人特定となる情報は得られなかった。

 この事件からマスコミやインターネットでは『透明人間事件』の名前で取り扱われる。


辰巳タツミ事件

 ※※※※年四月十六日十一時頃、辰巳オオマサ(26)が淡海府中央区府立芸術劇場前交差点にて自動車と接触、ボンネットに乗り上げた衝撃と地面への落下、後続車に轢かれたことで頭蓋骨骨折と頭蓋内出血による脳への圧迫、即死する。

 当時現場交差点は赤信号と歩行者横断中止サインが正常に作動していたにも関わらず、辰巳は立ち止った状態から道路上へと突発的に飛び出していた。胸から前に出ており、四歩ほど進んでから制止した。車は緊急自動ブレーキを作動させたが間に合わず衝突した。昼前ということで歩行者通路にはそれなりに人が多かったものの過密しているほどの状況ではなく、背後から突き飛ばせる位置に人間はいなかったと防犯カメラと付近の目撃者が証明している。

 辰巳は半年ほど自動車工場の期間工として働いた後、数か月は不定期で登録制単発バイトをしてまた期間工をするというサイクルで収入を得ていた。その日は劇場にて資材搬入の仕事を終えた直後だった。病気・怪我・睡眠不足や酒気帯び・精神的不調はなく交友関係にもトラブルはなかった。

 警察は事故として処理しようとしたが、先にマスメディアが『透明人間事件』と絡めて報道したため、殺人も可能性に入れて捜査を開始することになった。


 また、影佐の事故も今回と似たような事例なことから上記三件は関連性があるものとして、『淡海連続不審死事件』として警察は捜査本部を設置した。

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