第2話 違う、そうじゃない


 一人は対魔師の仕事中に出会った女子だった。

 その女子は塵魔に襲われながらも、木刀を手に懸命に小さな子供を守っていた。

 それでも普通の人間が塵魔にかなうはずもなく、あわややられかけた、その時に俺が助けた。まだ俺が目覚めて対魔師始めたての時だ。

 

「大丈夫か!? よく頑張ったな」

「あなたは...?」

「対魔師のアヤタカだ。半分烏天狗、さて、ちゃっちゃと終わらせるか」


 俺が塵魔を瞬殺し、その後その少女と子供は保護された。それからは合うことはない、と思っていたが、偶然街中で出会い。

 

「あなたはあの時の...! 私の命を救ってください、感謝します」


 街中で俺に対して土下座し始めたときはビビった。あまりに目立つものだから、俺は何とか彼女を近くのカフェまで連れて行き、話を聞いた。

 黒く長い髪をポニーテールに束ね、身長も170CM近く、スレンダーな体型。まさに美女と呼ぶべき外観をしている。

 

「重ね重ね、本当に感謝いたします...!」

「いや、いいよ。にしたってすごかった。倒せはもちろんしないが、木刀で塵魔の攻撃をいなしてた。どこかで訓練を?」

「ええ、私の祖父から。名はキョウと言いかつて黒魔王と共に戦った勇士と祖父は言っていましたが」

「ってことはあなたの苗字は木郷(きざと)か?」

「ええ、そうですが」


 キョウか。懐かしい名前だ。まだあの時はほんの小さな子供だったが。決戦前夜の襲撃の時、あの大型塵魔にとどめを刺したのはキョウだったはずだ。それを聞いて、キョウの頭をなでてやった記憶がある。喜んでたっけ。

 

「なぜ祖父の名を?」

「あ、いや、ほら、黒魔王のwikipediaに書かれてて」

「ふふ、確かに祖父の名も小さくかかれていますからね」

「てことは、君も退魔師を目指してるのか?」

「夢ではありますが、それもかないません。私は祖父の魔力を受け継いでおらず、そのうえ、私の家は叔父の稼業の失敗により、全財産を失いました。今や退魔師になるには、才能以上に金銭が必要な時代です。そんな苦労を、両親にはかけられません」


 確かに、よく見たら近場の高校の普通の制服を身にまとっている。

 でも、キョウの孫で、さらにこの才能。埋もれさせておくには惜しいな。


「君、名前は?」

「木郷時乃(きざと ときの)と申します」


 そうしてその日は神代桜と別れ、家路についた。

 帰宅後、猫又に『才能のある退魔師希望者を支援する制度は無いか』『俺の金を使ってもいいから、支援する方法が無いか』を訪ね、猫又からは『本部に聞いてみますにゃ!』と返答があり、早速支援の仕組み作りが始まり、あと二か月後には制度が出来る話になった。

 制度が出来次第、俺の名を使って彼女の支援をしてほしいと言付け済みだ。

 

〇〇〇


 二人目は、ラーメン屋で出会った子だ。

 任務が夜遅くなり、夜9時を回った頃。ふらりと訪れたラーメン屋で働いていた少女だ。

 閉店時間間際で、客で残っているのは俺一人という状況。

 

「お待たせしました! 味噌チャーシューメン、ネギ多めです!」

 

 青い瞳を持ち、ロングの金髪が特徴的な彼女。

 声色も非常におっとりして優しい雰囲気だ。そんな彼女が注文したラーメンを持ってきたとき、俺は彼女から聖なる力を感じ取った。

 

「あ、すみません店長、ちょっと弟たちから電話が」

「おう、いいぞ、行ってこい」


 そうして彼女が店の奥へと引っ込んだあと、店長が俺に言ってきた。

 

「その雰囲気、あんた対魔師だろ? 若いのによくやってるな」

「そんな大したもんじゃないですよ」


 ふと、俺は先ほどの彼女のことを聞いてみることにした。


「あの子さ、もしかして神社やら教会関係の子だったりしないか?」

「おう、よくわかったな。どうも祖父が神社の神主だったらしい。髪と目は外国から来た母方の血だとよ。でもかわいそうなこって、塵魔に神社がやられちまって、祖父も両親も神社も失ったらしい。普通なら高校に通って高校生活を満喫しているんだろうが、学校にも行かず、弟と妹のためにずっと働いてるんだ」


 なるほど、あの神聖な気配にも合点が行った。

 塵魔との闘いの際、塵魔が貼る結界を神聖な力で破壊する、『祈り手』という存在が不可欠だ。あの強い神聖な気配、おそらく祈り手としての気質は上場だ。

 すると、あの少女が戻ってきて、店長に頭を下げる。


 俺はラーメンを食べ終え、会計へと進んだ。レジに立つのは彼女だ。

 胸元の名札には「風見(かざみ)ルク」と書かれている。

 

「お会計ですね! えっと、980円です」

「店長から話を聞いたよ。大変だね」

「え、もう、店長ってば...でも、店長が私のこと、人に話したかもしれません」

「弟や妹を養ってるんだってな。大変だろうけど、応援してるよ」

「えへへ、すみません、ご心配おかけしまして...」


 その後も時折ラーメン屋へ訪れては、たまにお菓子とかを差し入れした。ついでに猫又に、祈り手として才能を持つ者を支援する制度は無いかと聞いてみたが、さすがに本人にその気があるかわからないと、支援も何もできないと聞いた。

 今度ラーメン屋に行ったら祈り手の勉強をしてみないか聞いてみるつもりだったが、対魔師としてランクが上がったあとは、中々行く機会に恵まれなかった。


〇〇〇


 三人目は...何の才能もない、喋り方以外は普通の女子だ。

 対魔師として名が売れ、Aクラスに到達した時。顔がある程度売れてしまい、俺は顔を隠して外出せざるを得なかった。

 ある日バスで移動していたとき。その日は混んでおり、席は一杯。俺の隣には、栗色で、肩にかかるくらいの髪を持った女の子が座っていた。まだ中学のあどけなさが抜けない雰囲気で、おそらく高校一年生だろう。

 最初、俺の隣で寝ていたはずだったが。


「キミは対魔師だね」

 

 突然目覚めたかと思うと、小声で俺にそう言ってきた。


「な、なんのことかな」

「さすがにこれだけ近ければわかる。最近テレビでも有名な、確かアヤタカ君だったね。キミの活躍は耳にしているよ」

「はは、どうも」

「だから、あえて伝えておこうか。僕たちの生活を守ってくれてありがとう」


 そう小声で俺に言ってくる彼女。いや、その小声、なんか脳がぞわぞわする。ま、まさか妖怪の一種か。いや、でも魔力は全く感じない。


「まぁ、ここだけの話、僕は君たちのような対魔師とか、妖怪の類が嫌いでね」

「え」

「生活を守ってくれていることには感謝しているよ。だが、あまりいい思い出が無くてね」


 彼女が言うには、対魔師の一部は、能力も何も持たないものを見下す輩が居るらしい。というか多いらしい。妖怪も、大昔ながらの人間を見下すものが居るとか。

 それらを両親に持つ子供によるいじめが小学生の時にあったらしく、それらに舐められないように、こういった変わった口調にしているとか。

 

「しかし、なんで俺にそんな話を」

「僕は何も力もない人間だ。妖怪たちの多くがそうであるように、僕も人間であることに誇りを持っている。君たちのような対魔師とか妖怪とか、そういうのに関わりたくないし、一生関わらないと思う。だけど、そういう事実があるということを、最近駆けあがってきた君に知ってほしかっただけさ」


 すると、俺に対して柔らかな笑みを浮かべた彼女が言う。


「なんとなく、君は違うと思ってね」

「へぇ」


 しゃべり方と言い面白い子だ、と思った。

 そうしているうちに、俺の降りるバス停へと到着した。


「さようなら対魔師さん。もう会うことはないだろう」

「ああ。でもあんたから聞いた話、胸に刻んでおくよ」


 そうしてバスから降りようとすると、バスに乗ってきた女子高生が少女のもとへと向かう。

 

「あ、いたいた、紅葉(くれは)-」

「こはバスの中だ。声が大きいよ」


 紅葉か。可愛らしい名前だな。

 そう考えながら、俺はバスを降りた。

 

〇〇〇

 

「面白い子たちだったなぁ」

「にゃるほどにゃるほど。ところで、その紅葉という子はこの子ですかにゃ?」


 猫又が俺にタブレットの画面を見せてくる。

 犬剣紅葉(いぬつるぎ くれは)か。表示されている名前も、顔も一致してるな。


「ああ、間違いないよ」

「承知しましたにゃ! では」


 そうしてタブレットを操作していた猫又が次に言い放ったのが。


「お待たせしましたにゃ! お三方の名井斗学園への編入、および眷属契約の準備が完了しましたにゃ!」

「...は?」

 

〇〇〇


「反応は三者三様でしたにゃ」


 どうも学園のかなりお偉いさんが直々に三人に通達しに行ったらしい。


 時乃は家に直接赴き、編入と学費の全額無償補助を申し出たところ、家族全員で号泣、それもうれし泣きしていたらしい。

 かつての俺の戦友、キョウが居た頃は、まだ対魔師という呼び名じゃなかったが、実質今では対魔師扱いされてるらしく、どうやら、家系でキョウのように対魔師を出すのが夢であったらしい。

 どこの骨かもわからない男の眷属として登録するのも、家族全員進んでサインしたようだ。

 対魔師として断絶した家系だが、対魔師見習いとして編入するとともに、何やら組織が管理してる対魔師の系譜に血脈が復活したことを記載する旨も伝えたところ、家族全員土下座しながらの号泣だったらしい。

 

 ルクには、なんとラーメン屋でバイト中に通達したとか。

 学園の卒業および、大学進学する場合は生活費含め全額補助。もちろん、弟と妹の学費や生活費も大学卒業まで全額無償で補助し、弟や妹の生活のため、ヘルパーを無償で付けることを通達。

 ルクは最初は驚きが勝っていたそうだが、次第にそれが事実、かつ確約されたものだとわかると、非常に喜び、店内に居た店長や客までが大騒ぎ。全員に無料でラーメンが提供されたそうだ。

 眷属については、その場に居た客や店主、ルク自身も良くわからず、喜びの勢いでサインしていたとかなんとか。

 

 最後に紅葉。彼女の家に言った所、両親しかおらず、両親は大喜びで承諾。次に彼女の通う学校の教師たちにまず編入のことを伝え、緊急の全校集会を体育館で実施。そして全校生徒の前で、彼女の編入について伝えたらしい。

 名井斗学園の昼クラスは世界に名をとどろかせる名門女子校。それも一流の対魔師になるか、なれなくとも一流の職業に就く者が大半の、名門中の名門だ。

 一般的な高校からの編入であれば、学校総出で大騒ぎ、祝福。

 当の本人は青ざめ、たたずんでいたそうだ。編入の書類に震えた手つきでサインし、眷属に関する書類には嗚咽しながらサインしたとか。皆、それを喜びゆえと思い込んでいたらしい。


〇〇〇

 

 この学園への編入は、何も珍しいことではないと聞いた。

 とはいえ、学費がすさまじいことと、今では衆望の的である対魔師になれることから、居るのは研鑽を積んだ、相当優秀な対魔師志望か、お嬢様ばかり。

 しかし対魔師志望が途中から編入してくることは少なく、編入の場合、多くがかなりの金を積んだお嬢様が大半とのことだ。

 

 名井斗学園は全寮制。俺は勝手に抜け出して自宅へ時折帰っているが、本来はここに帰ってこなければならない。

 そして夜クラスと昼クラスは校舎すらも分かれていて、校門を挟んで対面上に立っている。だから朝起きていれば、寮から登校してくる女子学生たちを見れるわけだが。

 

「たのもー! 私はこの度この学園の生徒と相成った、木郷時乃と申す者! 以後、お見知りおきを!」


 寮がある方角とは逆にある校門。そこでモデル体系の美少女が頭を下げる。

 登校中のお嬢様たちはビクリとしながら、ひそひそと話し合っているが、その中の一人の少女が、時乃の前に立つ。その少女には、「きゃー! 一年の第三位の方よ!」と黄色い声が飛ぶ。

 

「あなた、見たところ対魔師志望ですわね」

「いかにも!」

「いい目をしているわ。ではこの木刀を手に取りなさい。一戦交えましょう」

「望むところ! いざ尋常に勝負!」


 いきなり戦いを始めてしまった。

 その近くでは、転んでしまった女生徒に「大丈夫ですか?」と手を差し出すルクの姿が。

 さらにそのそばを通るのは、下を向きながらブツブツと何かをつぶやきながら歩く紅葉。

 

 夜クラスの校舎の窓から見ていると、側には何人かの夜クラスの面々が。見たところ、対魔師としてはSS二位の吸血鬼だったかな。

 金に赤い瞳を持ち、身長も俺よりも高い、おそらく180はあるだろう。


「フフ、あの子たちが三位が編入させたとかいう三人かな」

「否定はしない」

「あの黒髪の子はそれなりの訓練を積んでいるように見える。金髪の子は、なるほど良い神聖力を持っているようだ。茶髪の子は...食料かなんかか? 訓練も受けてない純粋な人間か。美味そうだ」

「食料とかそんなんじゃねぇ。色々スレ違いがあったんだ」

「へぇ。じゃ、ぼくが眷属契約をしても良いわけだね」

「あいつらが自分から望むならいいが、無理やりはやめろ」


 巻き込んだ俺が申し訳なくなる。

 編入時の眷属契約の書類。眷属ってのは、妖怪の下僕的なものだ。

 眷属となった人間は、主人由来の能力や魔力の強化を得られる代わりに、主人には絶対服従。操られるというよりは、反抗しようとすると、何かしらのペナルティが与えられる。

 この学園に入学する純粋な人間、もしくは半分妖怪である半妖は、『夜クラスの生徒に気に入られたら眷属になってもいい』という契約を必ず行う。

 むしろ夜クラスの妖怪や半妖の眷属になるのは光栄ともみられていて、特に夜クラス上位の者の眷属になれれば、一生の安泰を約束されたものらしい。故に、この学園に入学する生徒は拒絶することはまずない。

 でも。


「あいつはそういうの、嫌がりそうだなぁ」


 うつむきながら歩く紅葉の姿を見ながら、俺は思った。

 

 

 

 さて、ここまではあくまで俺から見た彼女たちの姿だ。

 ここからは、彼女たちから見て、この学園の生活がどうだったかを語っていこう。

 そうだな...やっぱりここは、一番普通の子、紅葉がどう過ごしたかを語ろうか。

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少年漫画的に現代を救って78年後に目覚めたら、学園上位で「おもしれー女」って言うポジションについてしまった話 うにとかに @chachanko

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