5:35
@souryo11
第1話
am5:35
いつも目覚まし時計が鳴る1時間前。
私は生活リズムが崩れに崩れていた。
休みだからといっていつもと違うことをするのは良くない。
そうと分かっていても夜更かしをしてしまう。
睡眠は大事だと言うことはとてもよく知っている。
健康にも肌にもメンタルにも睡眠不足は支障をきたすと分かっているのに。
「今日から仕事なのに」
カーテンからこぼれている青白い光を見て少し呟いた。
私はシンクに溜まった洗い物を片付けることにした。
最近何も上手くいかない。
上手くいくと期待している私が馬鹿なのかもしれない。
ちょっといい大学を卒業したからといって上司はいつも私に期待している。
それが上手くいかない原因かもしれない。
しかし、期待されなくなってしまうと職場での価値を失ってしまうような気がする。
「こんなこと考えるのも寝てないからかな」
また言い訳を考えてしまった。昔からそうだった。言い訳を考えては自分を守っていた。
本当は言い訳が大嫌いだ。自分が嫌いだ。
スーツに着替えて家を出た。電車はもう混んでいるだろうか。コンビニでパンとエナジードリンクを買った。エナジードリンクは会社に着く頃には常温に戻っているだろう。
電車はいつもより空いていた。電車の絶妙な揺れが眠気を誘う。スマホでニュースを見続けることにより睡魔を退治した。
会社の最寄り駅に着いたころには、家のカーテンからこぼれていた青白い光ではなく、太陽が完全に活動している日中といった様子だった。暑い。この前まで桜が舞っていたのに、日本はもう夏らしい。
会社に着くと上司はもう出勤していた。
「おはようございます」
「おーおはよー。この資料作り直しといてー」
「分かりました」
資料の作り直しを喰らったのは3ヶ月ぶりだった。
やはり私はダメ人間なんだろうか。
そんなことを考えながら、ぬるいエナジードリンクと菓子パンを胃に収める。
まあ天才なんて人類の数パーセントだし、細かいこと気にしなくていっか。
午前中で資料の作り直しは終わった。昼休み前、上司に確認に行く。
「資料作り直したんですけど、これでいいですか?」
「あーセンキュー。なんかなぁ、君の資料ってさぁ、なんかこう、センスがないよね」
「はい?」
「センスだよ。センス。何が大事で何が大事じゃないかよく分かってないでしょ?こんな資料でいいと思ってんの?もうちょっと頭使えよ」
「はい、すいません」
「もういいよ。別のやつに作らせるから。別の仕事しといて。」
「分かりました」
泣きそうだったが必死にこらえた。
エレベーターで1回に下りている時、自分の人生もエレベーターのように降下していると感じた。
「終わった」
私の人としての価値が1つ失われた瞬間だった。
塵も積もれば山となるという言葉があるように、人間は小さなミスを積上げていくことで人から信用を失う。
昼食を食べる気力もない。眠たい。
1階のコンビニにあるイートインスペースでうつ伏せになって寝た。
仕事場に戻ると上司に声をかけられた。
「取引先に送るメール今日の午前中までに送っとけって言ったけどちゃんと送った?」
「、、、、確認します。」
大丈夫。ちゃんと送ったはずだ。メールの送信済みトレイを開く。1番上に出てきたのは4日前のメールだった。
「あれ?」
下書きトレイを開くと最終編集2時間前の表示が出てきた。
「送ってないよな?取引先から連絡ないと思ったらそういうことだったのか。こっちから電話して謝っとくよ。あーあ。せっかく新しく契約した取引先なのになあ。」
それから後のことは覚えていない。
pm20:36
ドアを閉めると玄関で横になって寝た。
来年は左遷かな。解雇かな。
少なくともあの職場で私の価値は底辺まで落ちた。
私は徐々に日々の生活に価値を見いだせなくなっていった。
食事も偏り始め体も痩せた。
考えながら仕事することをやめ、ロボットのようにキーボードを黙々と叩いていた。
高校時代の友人と食事をする機会があった。
友人は大学の医学部に現役で合格して今は医者として働いている。
「ちょっと元気ないんじゃない?心理カウンセラーとか紹介してあげよっか?」
「いやいいよ。私元気だから。」
また嘘をついてしまった。本当はもう限界かもしれない。私に価値は無い。誰にも必要とされない。仮に必要とされても、誰にもできるような単純作業。私のアイデンティティは失われた。
二週間後会社を退職した。退職理由は一身上の都合と書いた。あながち間違ってはいない。
今は引きこもりニート生活をしている。
家からは滅多に出ない。外出するのは月に二回病院に行く時だけ。ここからどうして生きていけばいいんだろう。貯金は徐々に減っていく。両親は私が大学に通い始めた頃離婚してそれ以来連絡をとっていない。ベッドに横たわって涙を垂らしながらそんなことを考えた。目覚ましの役割を失った目覚まし時計の時刻は
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