第4話 『最終回』
『しかし、女将さん。世の中がみな壊れてしまったら、あなたも、商売上がったりでしょう。』
と、和尚さんがたたみ掛けた。
『ほー、ほほほほほ。』
女将さんは、またまた、あっさりと笑い退けた。
『ほらほら、あなた、いいかげん、正体を明かしなさいませ。』
と。女将さんは、なぞのおじさんに言った。
『ええ? 正体なんて、判らないから楽しいのだ。』
『でも、水爆まで使って。』
『ふうん。なあ、和尚さん。七度狐という、落語をごぞんじか?』
『ふとしたことから、しつこい狐を怒らせて、七回ばかされる話ですな。』
『さよう。わたしは、宇宙七度ぎつね、というあたりですかな。はははははははは。』
『あたくしは、一応、妻です。こん。』
『はあ?』
『うちうじん、ですかあ?』
ぼくが、あきれて、叫んだ。
『地球、しんりゃく?』
『まあ、そうですなあ。早く言えばな。』
『遅く言えば?』
『さよう。ちきゅう、じょうかさくせん。』
『そんな? じゃ、ここは?』
『もちろん、基地ですなあ。宇宙船内にあります。水爆くらい、問題になりません。あなたがたは、つまり、和尚さん、あなた、魚屋さん、写真やさんは、捕虜です。この、残りの人たちは、みな、さくら。はははははははは。』
『いや、そりゃおかしい。』
と、ぼくが主張した。
『おかしい? なんで?』
『捕虜にするには、年寄りのおじさんばかりです。無意味だ。』
『ばかな。捕虜に選り好みはない。』
女将さんは、歯をくいしばるように、こらえていたが、ついに、爆笑した。
『だから、やめなさい。と、申しました。こんやは、この人のおごりですよ。食べていただいたものは、ぜんぶ、本物ですよ。ご心配なく。さあ、お開きにしましょう。あすも、また、必ず、おいでくださいね。でないと、後悔する間もなくなりますから。』
『はあ?』
『表に、タクシーを回します。』
『タクシー?』
『はい。みれば、わかります。』
ぼくたちは、逆らう余地を持たなかった。
玄関さきには、小型のUFOが、2台、停まっていたのである。
頭には、『宇宙きつねタクシー』と、書いた四角い箱が乗っている。
運転手さんは、お店にいた若い男性だった。
しかし、その帽子の中のお顔は、たしかに、きつねさん、だったのだ。
ぼくと和尚さんは、いっしょにUFOに乗り、そいつは、あっという間に飛び上がったが、すぐに、眼下には大きな地球が拡がっていた。
『では、タイム・ワープします。』
ぐわん!
と、言ったと思ったら、もう、和尚さんちのお寺の境内だったのである。
『ども、ありがとございます。あすも、お待ちしてます。ぜひどうぞ。必ずおいでくらさい。こん。あ、残りのかたは、もう一台で、ちゃんとお帰りになってますから。』
和尚さんとぼくは、ぽかんとしていると、UFOは瞬間に消えてしまった。
『ちょっと、朝まで寄ってきなさい。なんか、夜道は危ないから。』
と、和尚さんが言うから、そのようにしたのである。
お寺には、誰もいない。
『なんだか。おかしいよなあ。』
と、和尚さんが言いながら、また、ビールとコップをふたつ、持ってきた。
『もう。ビールはやめましょう。』
『いやいや、あすは、予定はないし、邪気祓いをしなくては。』
『はあ………あ、ども。』
『それにしても、不可思議な。』
『いやあ。まあ。でも、滅んでなかったですからね。あれは、つまり、お芝居ですよ。まあ、UFOは、解らないなあ。酔いすぎたかも。』
『たしかになあ。なにかのトリックか。』
ぼくは、スマホをみて、あらっ?
と思った。
『あらあ。日付がおかしい。今日は、7月8日ですよね。』
『ああ、もう、明日になってるからな。』
『でも、ほら、これ、7月7日ですよね。』
『ほう? どれどれ。おいらのは。おお? 7日ですな。』
和尚さんは、まだ、はっきりしないふうに、テレビをつけた。
『……お伝えしておりますように、アカサタナ共和国のハマヤラ大統領は、非連合諸国は、アカサタナ共和国に、恭順の意を、あす、日本時間の午後7時までに示さなければ、全面核攻撃をする。と。通告しました。政府は、ただちに、拒否すると発表しました。また、アイウェ合衆国は、もし、一発でも、核ミサイルを発射したら、すぐ全面核報復する、と大統領声明を出しました。解説のワイウエさん、なにがどうなってるんでしょうか?』
『ハマヤラ大統領は、言ったことは必ず実行してきました。そのために………』
『なんだ、そら?』
ぼくは、呆気にとられた。
すると、和尚さんが言った。
『いやあ。こんや、われわれは、何回騙された?』
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『続 少数酒場』 やましん(テンパー) @yamashin-2
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