第3話 『なぞの女将さん』 その2
『はあ……………』
その光景は、まさしく、筆舌に尽くしがたきものでありまして、従って、詳しくは書けないが、地獄の責め苦など遊戯にすぎないだろう、とさえ思わせるような、壮絶なものであった。あたりは、真っ暗闇でなにも見えない。しかし、やがて、映像がはっきりしてきた。
なぜだか、この映像には、わずかに残っている廃墟までもが、しっかりと、生々しく、写っている。
しかしながら、猛火も上がっていた。
『これは、すげえ……』
3丁目の魚屋のご主人が、いかの天ぷらをお口にくわえたまま、言った。
『おいらの叔父さんは、広島にいただ。1945年8月6日だあ。しかし、その話に聴く光景を、もしかして、越える災害かもしれねぇな。こりゃあ。………』
『おれも、仕事柄、写真集とかも子細に見たがな、また、広島にも何度か行ったが、あれは、まさに、正視しがたい光景だっぺ。』
中央町の写真やさんが応じた。
『うんだ。しかし、実際に見た人の話ら、それは、悲惨だあ。』
女将さんが、話しに割って入った。
『この映像は、特殊な装置により、人工知能に制御されつつ、撮影されておりますの。中継です。また、その筋の情報によれば、さきほど、県庁付近に、20メガトンクラスの水爆が落ちたようですよ。』
女将さんが、あっさりと、言ったのである。
『なんで、つまり、このあたりは、一瞬に蒸発したものも多数かと。』
『いや、いや、だって、おかしいでしょ。やはり。なんで、ここは、あるの? 県庁から7キロくらいしかない。おかしいです。あら、携帯が効かない。おかしいなあ。』
ぼくは、反論しかけたが、スマホが、なぜだか反応していない。
『あるとおもえばある。ないとおもえばすでにないのですぞ。』
あのおじさんが、わけのわからない事を、また言ったのである。
『そりゃ、お話しにならないですよ。冗談きついなあ。』
ぼくは、絶句した。
『きみきみ、これは映像だよ。映像。いくらでも、なんとでもなる。なあ。そうでしょう。電話は妨害も出きる。なあ?』
和尚さんが、笑いながら言った。
『われわれは、無事である。つまり、県庁付近に核爆弾が落ちているわけがないのです。だいたい、電気来てるでしょう。明白です。明らかだ。女将さんと、あなたの作った、まあ、ジョークでしょう。はははははは。あ、なまごみだあ。』
『んじゃ、ちょっくら、外に出てみるべか?』
魚屋の大将が言った。
『おやめなさい。まあ、敷地のなかだけなら、問題ありませんよ。でも、提灯の範囲外に出たら、まだ、放射線量が高いですよ。』
女将さんが、強く、戒めたのである。
🙏
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます