第3話

着陸して機外に出るとき、なんとも言いようがない解放感に包まれる。

日本に帰国した安堵感がそれをさらに加速させてくれている気がする。

機内と違い光が降り注ぐブリッジを経て、そこからターミナルビルへ入る。

屈曲した大きなガラス面が美しく、僕の心を優しく包み込んでくれる。


とりあえず喫煙所に向かおう。

そう考えいつもの道を進んでいく。

このターミナルビルの喫煙所は薄暗いところに押し込められておらず、光が入って来る心地の良い空間だ。


喫煙所で加熱式タバコをくゆらしていると、少しずつ現実感が帰って来る。

これからやるべきこと、やらなくてはならないことの憂鬱さも同時に襲ってくる。

少しだけ現実から逃げ出して、過去の記憶に浸りたくなってしまう。


窓から惜しげもなく入って来る陽光が愛おしく、そして辛い。

その光にかつて見た青空を重ねてしまう。

まだ10代だったあの日々。


あの日見てた空、青空は変わらないけれど…あの頃と違うのは君が隣にいないこと。

そう、君が自分の意志で去ったのではなく、僕の臆病さ故に去ったのだろう。

自己嫌悪。


いつだって眩しい光が輝くと思わず背を向けてしまう。

自分には過ぎたものだと身体と心を反転させてしまう。

それは10代の頃から変わりはしない。人はそう簡単に感情の根っこを変えることはできない。

根を変えることを成長と呼ぶのだろうか、僕にはわからない。


交わした約束を守れなかったのは臆病だったからだ。

君との未来を信じることはまたできなかった。

それは条件ではなく、僕の内面に由来している部分が大きいのだろう。

探り合いの果てにお互いが一歩踏み出す勇気を持てなかったのも僕自身のせいなのかもしれない。

交わした約束を守れなかったことが二人の心の傷になる。

それを取り繕うことはもうできない。

流れる川面、君と僕は違う岸辺へたどり着いたのだから。


僕は僕なりに夢にあがいていたつもりだった。

しかし、鮮やかすぎる光に背を向けていた。

一人ぼっちの闘いの果てに。

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終わりは始まり ゆうき @yuuki1972

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