第2話

目が覚めた時、飛行機は闇の中を飛んでいた。

真っ暗な宙の色が僕の心にそっと忍び込んでくるようだった。


ふと、あの人との想い出を回想してみようと思ったが自傷行為のようなものだと思い、止めた。

その代わりに溢れてくる想い、もっとしがらみのない関係でいられたらという子どものような気持ち。

大人には許されないことだとわかっていても、つい、考えてしまう。

もし、17の時に逢えていたなら…そんなことさえ思ってしまう。

少なくともいまよりは激しいときめきを感じたのではないだろうか。


結婚が人生の墓場なのかどうかはわからない。

よく、人はそう言うが、新しい未来だって本当はあったはずだ。

共に時間を紡いでいく試みはエキサイティングなものになりそうな予感もあった。

しかし、そうはならなかった。

どうしてそうなったのかは、いまは、わからない。

こういうことは時間が解決するのだろう、そう自分に言い聞かせながらシートにまた身を委ねた。


彼女だけをみつめすぎたのがよくなかったのか。

大人ならもっと余裕を持って押したり引いたり、やり過ごしたり、そんな技も使えたはずだ。

しかし、彼女の邪さの欠片もない笑顔の前では僕は17歳のように振舞ってしまっていた。

それが自分の甘えだと気づいてはいた。

しかしその心地よさから抜け出すことはできず、彼女もそれを是とするかのような態度を取り続けた。

その末路がこのザマだ。

決して沈み込むことのない固いシートに身を預けていると、思考まで固まってきてしまうようだった。


大人には大人の振る舞いが要求される。

愛している、その想いだけではなにも掴めない。

愛している、その想いがなければなにも始まらない。

その途中にあるもの、その距離、その時間、すべてに対して余裕がなかったのだろう。

自分にも相手にもその準備ができていなかったのだと、思いながら再び眠りについた。

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