28話-突然の再来〔後編〕

「アイツ、名前を言わなくても他人の魂を使えるんじゃないガウか?」


 なぜフェルがそれを知っているのか疑問に思うところだけど、フェルは間抜けな顔で鼻をほじり、ぽいっと僕の方に向けてその鼻くそを投げながら言う。


「ちょっと! 汚いから辞めてよ! それに、フェルの言っている意味がよく解らないんだけど!?」


 僕は、フェルにソレを投げるのを辞める様に注意しながら、話を聞く。


「オマエは阿呆ガウか? 言葉の意味のまんまガウ。遣えているガウからそれが真実ガウ」


 フェルは間抜けな顔のまま、カルマンが来たなら自分の出番はもうない。と言い、大きな欠伸をしながら、僕の影に戻ろうとする。


「よく解んないんだけど……?」


「アイツはオレサマと同様に、特異個体ってことガウ!」


 フェルは、未だに身体を虹色に輝かせながら、腰に手を当て、偉そうにふんぞり返る。


「特異な個体???? フェルはポンコツでしょ? カルマンもポンコツってこと?」


「オマエ、喧嘩売ってるガウか? オレサマは魂を守護するモノツカイマじゃなくて、他の奴らとは違う特別な魂を守護するモノツカイマガウ!」


 フェルは、自分のことを特別な魂を守護するモノツカイマだと思い込んでいるらしい。


 ここはあまり、下手に刺激をしない方がいいと思い、僕はフェルの話に合わせることにした。


「そ、そうなんだね! フェルって、選ばれた魂を守護するモノツカイマなんだね!!!!」


 まぁそんな話信じていないけどね。


「ふんっ。オレサマのスゴさをようやく、理解したかガウ! なら、毎月の小遣いを、五十万セクトにしろガウ!」


 フェルは、道理も筋も通っていないことを、誇らしげな顔をして要求してくる。そんなフェルを見て、僕はやっぱりフェルはポンコツなんだな。と、不思議だけど安堵した。


「フェル。それはそれ、これはこれね。どうせまた、ギャンブルで負けてくるんだから、そんな大金を上げるつもりは毛頭ないよ?」


 僕はそんなフェルに、現実を突きつけながら、なぜ、小遣いを増やさないかを説明する。


「次は絶対に勝てるガウ!」


「ギャンブラーは皆そう言うけど、負けて帰ってくるからダメ!」


「ケチガウ!」


 フェルは、少し拗ねた様な表情で、僕を睨む。


「おまえら、俺が戦っているっていうのに、呑気に談笑とは。そんなに殺されたいのか?」


 フェルとそんな会話をしていると、カルマンがとても大きな鎌を振り回しながら、鳥に似たナニカの胸ら辺から露出している心臓? の、様な赤いコアに鎌を振り翳し、僕たちを睨む。


 キュウウウウウウウウウ──ッ!


 パ──────────ンッ


 メテオリットは弱々しく声を放ち、吐出した心臓らしき赤いコアのようなモノから、赤い液体を撒き散らしながら、破裂した。


 破裂した液体は、大図書館一体に降り注ぐ。


 だけど、カルマンが事前に張ってくれたベールのお陰か、僕たちの場所だけ、その赤い液体がベールに反って流れていく。


 フェルと談笑している間に、どうやらカルマンが討伐してくれたようで、僕は安堵の溜め息を漏らした。


「さっきは助かったよ! ところで、なんでこんなところにいるの?」


 僕は不機嫌そうなカルマンを刺激しない様に、あえてカルマンが言った言葉を流しながら感謝する。


「おまえに以前、渡した虹色の玉のお陰だ」


 カルマンは僕を冷たい眼差しで睨み、虹色の玉はどうした。と聞いてきた。


「えっと……フェルがさっき呑み込んだけど……?」


「はぁ?」


 カルマンは呆れた様な、怒った様な表情で、溜め息をつく。そして、


「おまえ、バカだろ! あれは追跡装置の様なもんだから、持っとけと言っただろ!?」


 そのあと、すうっと息を吸ったかと思うと、僕の耳が壊れるかと思うほど大きな声で、身に覚えのないことを言い始める。


「え……いや……。そんなこと聞いてないし……。フェルが美味しそう。って言って、勝手に食べただけだし……」


 僕は怒っているカルマンとは、裏腹になぜ怒られているのかよく理解出来ず、ただただ理不尽だと感じた。


「いや。俺は絶対に教えたはずだ!」


 カルマンは僕にそう言ったあと、通常の毛色に戻ったフェルの首根っこを掴み、


「おいたぬき。おまえの呑み込んだ玉を吐き出せ」


 と、フェルの両頬を片手でムギュっと押す。


 フェルは


「無礼者めガウ! 玉はオレサマのものガウ! とっととその汚い手を離せガウ!」


 と喚きながら拒否する……。


 カルマンはフェルの反抗に、言っても意味がないと感じたのか、フェルを大図書館の柵状の門に思いっきり投げつけ、フェルは門にぶつかり、柵と柵の間にすっぽりと収まった。


「俺と契約を済ませるまでは、当分の間、たぬきと行動を共にしろ」


 カルマンは、面倒くさそうに溜め息をつきながら僕にも責任を取って貰うぞと言いたげに睨みつけてきた。


「玉のストックって、ない──」


魂を守護するモノツカイマと行動を共にするのは、当たり前のことじゃなくって?」


 そんな僕とカルマンの会話に割り込み、ヘレナは腕を組み、偉そうな態度で聞く。


「ふっ。そんなことも知らないのか? 教養のないバカな女らしいな。普通はそうなんだが、このたぬきは特殊なのか、行動を共にせずとも、消滅することがないようだ」


 カルマンは、ヘレナをバカにした様な、威圧的な態度で見下し鼻を鳴らす。


「誰がバカですって!?」


 ヘレナは、なんなのこの人! と、カルマンを睨みつけ、かなり険悪な雰囲気へと……。


 ヘレナは、カルマンに食ってかかる勢いで問い詰めようとしていたけど、今日は非番だからと「気をつけて帰れ」と僕に〔だけ〕言い、愛想なく去って行った。


「今日は感動的な再会だったって言うのに、変な鳥が現れたり、めちゃくちゃ性格の悪い人に、喧嘩を売られたりして最悪だわ!」


 ヘレナはぷんぷんと怒りながら不満を口にする。僕はそんなヘレナに、そろそろ帰ろうかとなんて宥めたあと、大図書館の前で別れようとする。


「そうだわ! リーウィンの家は以前と変わってないわよね?」


 別れ際、ヘレナはなにを思ったのか、僕にそう聞いてきた。


「うん! 変わってないよ!」


「また私が暇な時、遊びに行ってもいいかしら?」


 ヘレナはホッとした様な態度を見せたあと、目を輝かせる。


 僕はその時、なにも考えず


「いつでも来ていいよ!」


 と、ヘレナが事前に連絡をくれることを想定して伝えた。


「遊びに行くわね!」


 ヘレナはそう言い、さっきまではとても怒った態度をとっていたのに、いつの間にか機嫌を直し、これまたいつの間にかやって来たのか? おじいさんが運転する、馬車に乗りこんで帰っていった。


 そんなヘレナの乗った馬車を見送りつつ、僕もこの日は大人しく帰路へ着いた。


 久しぶりのヘレナとの再会は、奇妙な鳥の登場により、大変な日になった。という気持ちが大きいけど、以前のヘレナみたいに、ピンチになった時、助けに来てくれたカルマンのお陰で、僕もヘレナも、怪我はなく、元気に家に帰れてよかったという気持ちと、そんなことがあっても、また会うことが出来て良かったな。と、安堵しながら僕はその日眠りについた。

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