39話-突然の再来〔後編〕
「アイツ、名前を言わなくても他人の魂を使えるんじゃないガウか?」
なぜフェルがそれを知っているのか疑問に思うところだけど、フェルは間抜けな顔で鼻をほじり、ぽいっと僕の方に向けてその鼻くそを投げながら言う。
「ちょっと! 汚いから辞めてよ! それに、フェルの言っている意味がよく解らないんだけど!?」
僕は、フェルにソレを投げるのを辞める様に注意しながら、話を聞く。
「オマエは阿呆ガウか? 言葉の意味のまんまガウ。遣えているガウからそれが真実ガウ」
フェルは間抜けな顔のまま、「カルマンが来たなら自分の出番はもうないガウ」と言い、大きな欠伸をしながら、僕の影に戻ろうとする。
「よく解んないんだけど……?」
「アイツはオレサマと同様に、特異個体ってことガウ!」
フェルは、未だに身体を虹色に輝かせながら、腰に手を当て、偉そうにふんぞり返る。
「特異な個体???? フェルはポンコツでしょ? カルマンもポンコツってこと?」
「オマエ、喧嘩売ってるガウか? オレサマは
フェルは、自分のことを特別な
ここはあまり、下手に刺激をしない方がいいと思い、僕はフェルの話に合わせることにした。
「そ、そうなんだね! フェルって、選ばれた
まぁそんな話信じていないけどね。
「ふんっ。オレサマのスゴさをようやく、理解したかガウ! なら、毎月の小遣いを五十万セクトにしろガウ!」
フェルは、道理も筋も通っていないことを、誇らしげな顔をして要求してくる。そんなフェルを見て、僕はやっぱりフェルはポンコツなんだな。と不思議だけど安堵した。
「フェル。それはそれ、これはこれね。どうせまた、カジノで負けてくるんだから、そんな大金を上げるつもりは毛頭ないよ?」
僕はそんなフェルに、現実を突きつけながら、どうして、お小遣いを増やさないかを説明する。
「次は絶対に勝てるガウ!」
「ギャンブラーは皆そう言うけど、負けて帰ってくるからダメ!」
「ケチガウ!」
フェルは、少し拗ねた様な表情で、僕を睨みつける。
「おまえら、俺が戦っているっていうのに、呑気に談笑とは。そんなに殺されたいのか?」
フェルとそんな会話をしていると、カルマンがとても大きな鎌を振り回しながら、鳥に似たナニカの胸ら辺から露出している心臓? に鎌を振り翳し、僕たちを睨む。
キュウウウウウウウウウ──ッ!
パ──────────ンッ
メテオリットは弱々しく声を放ち、吐出した心臓らしきモノから、赤い液体を撒き散らしながら破裂した。
破裂した液体は、大図書館一体に降り注ぐ。
だけど、カルマンが事前に張ってくれたベールのお陰か、僕たちの場所だけ、その赤い液体がベールに反って流れていく。
どうやら、知らない間に鳥をカルマンが討伐してくれたらしい。
「さっきは助かったよ! ところで、なんでこんなところにいるの?」
安堵の溜め息を漏らしながらも、不機嫌そうなカルマンを刺激しないよう、あえてカルマンが言った言葉を流しながら感謝する。
「おまえに以前、渡した虹色の玉のお陰だ」
カルマンは僕を冷た眼差しで睨み、「虹色の玉はどうした」と聞いてきた。
「えっと……フェルがさっき呑み込んだけど……?」
「はぁ?」
カルマンは呆れたような、怒ったような表情で、溜め息をつく。そして、
「おまえ、バカだろ! あれは追跡装置の様なもんだから、持っとけと言っただろ!?」
すうっと息を吸ったかと思うと、僕の耳が壊れるかと思うほど大きな声で、身に覚えのないことを言い始めた。
「え……いや……。そんなこと聞いてないし……。フェルが美味しそう。って言って、勝手に食べただけだし……」
僕は怒っているカルマンとは裏腹に、なぜ怒られているのかよく理解出来ず、ただただ理不尽だと感じ苦笑する。
「いや。俺は絶対に教えたはずだ!」
カルマンは僕にそう言ったあと、通常の毛色に戻ったフェルの首根っこを掴み、
「おいたぬき。おまえの呑み込んだ玉を吐き出せ」
と、フェルの両頬を片手でムギュっと押す。
フェルは、
「無礼者めガウ! 玉はオレサマのものガウ! とっととその汚い手を離せガウ!」
と喚きながら拒否する……。
カルマンはフェルの反抗に、言っても意味がないと感じたのか、フェルを大図書館の門に思いっきり投げつけ、フェルは格子状の柵と柵の間にすっぽりと収まった。
「俺と契約を済ませるまでは、当分の間たぬきと行動を共にしろ」
カルマンは、面倒くさそうに溜め息をなにか言いたげに、ギロリと睨みつけてきた。
「玉のストックって、ない──」
「
そんな僕とカルマンの会話に割り込み、ヘレナは腕を組み、偉そうな態度で聞く。
「ふっ。そんなことも知らないのか? 教養のないバカな女らしいな。普通はそうなんだが、このたぬきは特殊なのか、行動を共にせずとも、消滅することがない」
カルマンは、ヘレナをバカにした様な、威圧的な態度で見下し鼻を鳴らす。
「誰がバカですって!?」
ヘレナは、「なんなのこの人!」と、カルマンを睨みつけ、かなり険悪な雰囲気で、カルマンに食ってかかるけど、「今日は非番だ。気をつけて帰れ」と僕に〔だけ〕言い、愛想なく去って行った。
「今日は感動的な再会だったって言うのに、変な鳥が現れたり、めちゃくちゃ性格の悪い人に、喧嘩を売られたりして最悪だったわ!」
ヘレナはぷんぷんと怒りながら不満を口にする。僕はそんなヘレナに、「そろそろ帰ろうか」なんて宥めたあと、大図書館の前で別れようとする。
「そうだわ! リーウィンの家は以前と変わってないわよね?」
「え……?うん! 変わってないよ!」
「また私が暇な時、遊びに行ってもいいかしら?」
ヘレナはホッとした様な態度を見せたあと、目を輝かせる。
僕はその時なにも考えず
「いつでも来ていいよ!」
と、ヘレナが事前に連絡をくれることを想定して伝えた。
「遊びに行くわね!」
そう言い、ヘレナはいつの間にか機嫌を直し、おじいさんにエスコートされながら、馬車に乗り込み帰っていった。
そんなヘレナの乗った馬車を見送りつつ、僕もこの日は大人しく帰路へ着いた。
久しぶりのヘレナとの再会は、奇妙な鳥の登場により、大変なことになったけど、以前のヘレナみたいに、カルマンが
「ヘレナとまた会うことが出来て良かったな」
と、呟きながらその日眠りについた。
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未完の魂《ゼーレ》(仮) 月末了瑞 @tukizue_r
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