第22話
side ピィナ
ーーー南門前
門の前には沢山の冒険者達が緊迫した空気を醸し出しながら集まっている。
これからスタンピートが起こるのだ。無理もない話。いくらアタシがS級冒険者だからって緊張しない訳はない…いつになっても慣れないものだ。
(アイツは平気かな…いや平気だわ。グリフォンとかぶっ飛ばしてたわ。)
一瞬アイツ…星辰の事が心配になったが、あの規格外な力の前では皆ひれ伏すしか無い…地形は大丈夫かな…。そんな事を考えているとモヒカン頭が叫び出した。
「ヒャッッッッハァァァ!魔物のお出ました!」
その言葉と同時に腹の奥底に響くような地鳴りがする。
ーーースタンピートの始まりだ。
「事前に皆に伝えた様に動け!小パーティーで連携して魔物を狩尽くせ!」
アタシがそう言うか否か、血の気の多いものから魔物に向かって走り出す。勿論モヒカンなんか1番最初に走り向かっていった。
…私もグズグスしてらんないと思い、戦いに出る。
私は魔法でも、スキルでも無く精霊術で戦う。精霊術とは、この世界を陰から支えている精霊から力を借りて戦う。精霊と契約できる人間はそう多くは無い…スキル・精霊視が必要だからだ。
私は契約している風の上位精霊…ウェルという名の精霊を呼び出す。狼の姿で淡い緑色と白色の毛はフサフサしている。翡翠を想起させるような瞳はアタシに向いている。いつもは力だけを借り顕現はさせないが今回は大量の魔物を相手にする。だからウェルを顕現させ戦力にした方が効率が良い。
「ウェル。命令よ。目の前に居る魔物共を一掃なさい!」
そうウェルに命令を下すと彼は一つ遠吠えをした後魔物の群れに向かって走り出す。ウェルは下位の姿のとれない精霊達を従えて鋭い刃とかした風が魔物達に降り注ぎ、容赦なく切断していく。
ウェルの姿は早過ぎて目で追うことは難しい為他の冒険者にはアタシの術だと思っているらしい。
『すげぇぇ…』
『アレがS級…』
『次元が違うぜぇ…』
ポツポツとアタシに向かって沢山の視線が注がれる…見られるのにも慣れない。
ウェルの猛攻を潜り抜けアタシの所までやってくる魔物は短剣で命を刈り取る…実はウェルを顕現させている間は精霊術が使えなくなる。しかもアタシは魔力も少なく攻撃魔法や防御魔法が使えない上にスキルも精霊視のみ。だからアタシは短剣で戦う他ないのだ。次々と魔物達を薙ぎ払っていると
「…ッ!」
体の底まで冷え込むような強大なオーラを感じた。
探知や感覚が優れた冒険者はアタシと同じように感じたらしく、動きが硬くなる。
(…なんだ…この圧倒的オーラは!)
発信地らしき場所は北門…星辰達、5人のみで戦っている場所。
遠目でも分かる位にはでかい体躯を空に浮かべている…あれは
「ドラゴン…」
赤い鱗に覆われ、蜥蜴のような体に大きな羽が生えている…恐らく
(ヤバい!あっちには5人しかいない!ウェルを行かせるか!いや!こっちの戦況維持で必要…)
そう葛藤しているとドラゴンに向かって大きな滝の様なレベルの勢いと量の水が放たれていた。
(星辰…?)
あんなバカみたいな魔法を放てるのはアイツしかいない。しかし滝のような攻撃はドラゴンのブレスと相殺されていた。
(いくら何でも勝てない!星辰が死ぬ!)
アタシの頭は全く働かず、ただただ目の前の弱い魔物を斬り伏せるモノとなってしまった。
永遠のように感じた時間は突如として終止符を打たれた…次に見た瞬間にはドラゴンが空から落下していく姿だったのだ。
(…え?)
更に頭は混乱する。だって…いきなりドラゴンが落下しているのだ…しかも瀕死の状態で。
(倒したの…?星辰が?)
ドラゴンが息絶えたのを感じたのか魔物達は徐々に森に帰って行く。スタンピートが終わったのだ。
私は呆然としながら北門の方を見つめたままだ。
ーーーはやく星辰と合流して話を聞きたい。
その一心であった。
無能だと捨てられた従魔〜進化し得た力で世界最強に!!〜 狐の剃刀 @kitunenokamisori
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