第16話

俺は早朝に目を覚ました…部屋に付いて居る窓を開ける。


早朝特有の冷たい風が吹く。寝ぼけている頭には特効薬だ。


ーーー気持ちいい。


キラキラと世界は光で満たされて草花は、穏やかな風に踊るように身を任せている。徐々に活気ついていく風景はみていて楽しい。


ーーー世界はこんなにも美しい。


暫く俺は感動に浸っていた。






5分か10分かはたまたそれ以上か経った時、静寂で満ちていた部屋にけたたましいノックの音が響く。


ーーーコンコンコン!


「起きろ!馬鹿蛇!」


ピィナだ。俺は扉を開けて彼女を五月蝿い物をみる目で見る。


「ピィナ。俺は今、世界の美しさに感動していたところだ。」


俺はピィナにジト目で話しかける。彼女はまた珍妙なモノを見る視線で俺を見る。


「何…アンタ…今度はイタイポエマーにでもなったの?露出狂から転職でもしたわけ?」


「そのネタいつ迄引き摺るんだ!」


俺は露出狂という単語に思わずツッコンでしまった。


「で…ピィナ。俺になんか用があるの?わざわざ部屋にまでやってきて。」


わざわざという程の距離では無いが…


「アンタを起こしに来てやったのよ!しかも朝食の時間だから呼びに来てやったの!?」


そうだったのか!ピィナは意地が悪く見えるが、実は世話焼きなのだ。


「有難う!じゃあ…食堂に向かおうか!」


そう言葉を交わし、俺たちは昨日と同様に食堂へ向かった。










in 食堂


席に着くとエルナちゃんが元気よく朝食を運んできてくれる。相変わらず可愛い子供だ。


「今日はお母さん特製のフレンチトーストです!お好みで蜂蜜やメープルシロップを掛けてください!」


「分かったわ。有難うエルナ」


…ピィナは相変わらずエルナ相手だと優しい雰囲気を出している。一周回って気味が悪い。


俺はそんな事を思いながらフレンチトーストと対峙する。


(絶対これは美味しいやつ!)


俺は見た瞬間から確信していたのだ。程よく焼け目がついておりバニラの甘い香りが食欲をそそる。

試しに切り込みを入れてみるとふわふわで中までしっかり黄色が染み付いている。断面はトロトロだ。口に頬張ると昨日と同様に楽土が見えた。カリッと表面は焼けていて中はふかふか。パンの感触とバターのコク。トースト自体の甘さは控えめだが添えられている生クリームとの相性が抜群だ。

付け合わせのサッパリとしたサラダがこれまた美味い。


「今日も絶品!」




こうして至福の朝食の時間は過ぎていった。













朝食を済まし少し休息を取った後俺は冒険者ギルドに向かっていた。因みにピィナはショッピングとの事で別行動をしている。行く前に死ぬほど"騒ぎは起こすな"と注意された…別に俺が騒ぎを起こしているわけでは無いのに…首に巻いているヘアリー・ブッシュ・バイパーのブッチー君の頭を撫でながら、そう考えているのであった。


冒険者ギルドにつき受付場に居る、ナヌリーの元へ行く。今日も抜群なスタイルだ。


「おはようナヌリー。」


彼女に声をかけると返事がかえってきた。


「おはよう御座います♪星辰シンさん!本日は依頼を受けにいらして下さったのでしょうか?」


そう。俺は今日依頼を受けにやって来たのだ。


「そうだよ!今日は依頼を受けに来たんだ〜♪何か丁度いい依頼ってある?」


ナヌリーにそう聞いてみると


「少々厄介な案件があるのですが…」


何やら困っている様だ。興味が湧いてきた。


「此方の魔物を討伐して頂きたいのです。」


依頼書の内容はA〜B級の魔物"千里眼"の討伐願いであった。


「…確かにこれは厄介な魔物だね…」


千里眼とは長いキツネの様な姿をしている魔物だ。因み目が身体中に生えていて物凄く気持ち悪い。戦闘力は低いが、この魔物…千里先3900Km先の光景を見渡し、透視能力を持つ上に偶に数秒先の未来を見ることが出来るのだ。

だから隠蔽のスキルを使い戦う事もできないし、仮に出来たとしても未来視で逃げられるか、物凄く速いスピードで逃げてしまうのだ。


星辰シンさん…お願い出来ますかね…」


うっ…そんなウルウルとした目で見つめられると、断れない。俺はついつい依頼を受けてしまったのであった。





依頼書を片手に千里眼が出現した森にきた。この森は魔物が生息しない珍しく森である。暫く森の中を歩くと…


「いた!」


千里眼が湖で水浴びをしていた。此方に目を向けていない為気付かれていない。俺は闇魔法を展開して捕縛を試みるが案の定失敗した。


「ちっ時々使える未来視が厄介だ。」


俺は舌打ちしながらそんな事を口にだす。


確か一度未来視を使ったらクールダウンが必要なはずだ。俺は未来視を使えない今がチャンスだと思い魔法を放つ。


「中級闇魔法影縫カゲヌイ


どんなに素早くても地面に縫い付けられたら意味がない。一思いに千里眼の首を風魔法で刎ねた…血が辺りを濡らしていく。俺はスキルを得る為千里眼の体にたくさん生えている、目玉を抉り出し口に入れる…ヨーエの時も思ったが、物凄く不味い。グニョグニョした食感が気持ち悪いのだ。ゴクンと飲み込むと"スキル・共食い"が発動して頭の中に声が響く。





ーーー《スキル 未来視を獲得しました。》



ーーー《スキル 遠視を獲得しました。》



ーーー《スキル 透視を獲得しました。》




3つもスキルを獲得した!俺は試しに"スキる・遠視"を使用してみる。


「おぉ!凄い!」


ここから千里見えているか、わからないが物凄く先まで見えた。次は、"スキル・透視"を発動させた。


「すっごく見える!」


今度は木々が透けて見えた。これは建物の中に入らずとも中の様子が見えて安全を確保できる力だ。



問題は"未来視"であった。






















ーーー未来視を発動させた瞬間、物凄い数の魔物の軍勢が、この町を襲っている未来が見えたのだ。


「スタンピート…」


スタンピートとは何らかの影響で知性の低い魔物達が一斉に攻撃してくる現象のことだ。


「これは不味い…」


もっと正確な情報を得ようと力を込めるが目の限界か、目から血が流れて来てしまい未来が見えなくなってしまった。これでは、いつ、何処で、何時から、どのくらいの規模か分からない。


俺は千里眼の魔石をアイテムボックスに入れ、ギルドへ急ぐのであった。

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