第8話

俺たちは森の中を歩く。

途中沢山の魔物の群れに遭遇したがピィナが一瞬で殺してしまった。


「風の精霊たちよ!我の力となりその力を見せよ!精霊術 風花かざばな


ーーーそうピィナは上位の風の精霊の加護持ちであったのだ。『精霊術』とは魔法でもスキルでも無い別の力だ…精霊と契約してその力を借りる。

精霊と契約するのは至難の業で加護を得るのは選ばれた者しか出来ない。

それにしても詠唱が必要なのか…大変だなぁ…そんな事を思っていると


「漆黒の森程度の魔物じゃ相手にならないわね」


ピィナがそうぼやいた。


「ねぇアンタも戦ってみてよ。アンタの魔法見てみたいわ。」


ピィナは好奇心を滲ませた顔で俺にそう言ってきた。


「えぇ…」


正直面倒臭い。だって俺、悪魔公爵と戦った後で非常に疲れているのだ。魔力も底を尽きそうだし…


「早くやれって!町の人に全裸で森を徘徊していたって広めるぞ!」


なんて酷いやつだ。これでは断れないじゃ無いか!

俺は仕方なく魔法を沢山ある木々に向けて放った。


「初級闇魔法 闇刃ダークカッター


魔力を練り1番使っている魔法を行使した。この魔法は手足のように扱う事が出来る。


魔法の効果が切れる頃には辺り一体の木が消えていた。…少し…いやかなりやり過ぎたかもしれない。


俺は恐る恐るピィナの反応を見る…案の定彼女の顔は驚愕の色に染まっていた。何だか顔色も悪い気がする。


「あっあのぉ…ピィナ?」


「………」


ピィナは黙ったままだ。気まずい空気が流れる…心底居心地が悪い。永遠に感じた時間はピィナの声で終止符が着いた。


「〜〜〜!アンタ!化け物なの!?初級魔法でここら一体の木を薙ぎ倒すだなんて…魔力どーなっているんだよ!全く!」


捲し立てる様にピィナは俺に詰め寄ってきた

近い近い近い。普通に近い。互いの鼻がくっつくレベルだ。


ピィナの勢いはまだ止まらない。


「しかも!アンタ!詠唱していなかったわよね!アレはアンタのスキルなの!?チートじゃ無い!?」


ピィナの目が決まっている…鼻息も荒いし折角の美少女が台無しだ。


「お、落ち着けって!!一旦離れて!」


俺は心の底から叫んだ。


「落ち着けるか!コンチクショウ!アンタ馬鹿なの?馬鹿なのね!だって紐パンだもんね!マジでアンタ何者!?」


…今すぐ全世界の紐パン民に謝った方が良いと思う。


「俺はただの八岐大蛇ヤマタノオロチだ!」


そう言った…言ったのが間違えだったのだ。


「はぁぁぁぁぁ?!や、八岐大蛇ィィィ!?S級魔物の中でもかなり強い厄災中の厄災じゃない!?」


そ、そうなのか???俺自身自分の種族の強さが分からなかったのだ…それにしてもまさかS級の魔物だっただなんて…俺、町に入っても平気か???


「俺、町に入っても平気か?」


俺はピィナにそう問いかける


「…理性はあるようだし…冒険者にも獣人やリザードマン、大鬼オーガとかいるし…そういう基準なら大丈夫だと思う。」


よっ良かったァァァ!俺は森の中に逆戻りかと思ったわ!今は人の姿だから森だと何かと不便なのだ。


「良かった…」


「でも、あんまりアンタの種族は言わないほうが良いわよ…他の人からしたら恐怖だわ…てかアンタ魔力隠蔽上手いわね…普通の人間だと思った…」


後半に連れボソボソと小さい声になっていき聞き取れなかった。


「ねぇ…ピィナ。八岐大蛇って種族はどんな種族なの?」


自分自身について知る為にピィナに問いかける。


「八岐大蛇…それは8つの魂を持ち不死に違い存在…普通の蛇からコブラまでの魔物を生成し使役する…事しか知らないわ…だって歴史上でしか聞いた事が無いんだものッ!御伽話でしか出て来ないレベルよ!」


そうなのか…確かに8つの魂は持っている。

蛇からコブラ迄の魔物を生成出来て使役出来るとは…索敵に向いている良い能力だ。試しに蛇を作ってみる。


(なんかカッコいい蛇よ出て来い!)


そう手を地面に向かい手を翳し念じると魔法陣が現れ、そこから1匹の蛇が出てきた。毛羽だった鱗が特徴的で 血管系の細胞を破壊する出血毒を持つ「ヘアリーブッシュバイパー」だ。


(かっ…カッコいい…!)


ドラゴンみたいな鱗は俺の漢心を擽る。テンション爆上げ!


ブッシュバイパーは辺りをキョロキョロ見渡したあと俺の方をむき頭を垂れる。


「おぉ!」


試しに命令を下して見た。


「その場で3回回って鳴け!」


ブッシュバイパーは俺の命令を聞き3回回ってシャーと鳴いた。本当に使役出来るみたいだ!

俺はブッシュバイパーを持ち上げ肩に巻きつく。

カッ可愛い!


その様子をピィナはドン引きした顔で見ていた。


「普通毒蛇だす???アタシの事完全に忘れているよね?噛まれたら死にはしないけど嫌何だけど???しかもブッシュバイパーって触っても毒に当たるよね?なんでアイツ平気なの?」


ピィナが何か言っているが放置しておく。どうせ碌でも無い内容に違いない。


俺は暫くブッシュバイパーのブッチーと戯れるのであった。










ーーー町に着く。


(おぉ!)


新しい体で見る町は新鮮に感じる。

蛇の視界は目の位置から前方約60度しか見えていない上見えているが色を見分けられない。聴覚もあまりよく無い為活気付いた町はとても色鮮やで素敵に感じるのだ。


「あれ?ピィナがいない…」


キョロキョロと辺りを見渡しているうちにピィナと逸れてしまった。


「…匂いを嗅ぎ分けるか…」


俺は地面に鼻を近づけピィナの匂いを探す。

蛇は嗅覚は鋭いのだ。人の体になってもそれは変わらなかった。匂いを嗅ぐのに夢中で俺は近づいてくる人に気づかなかった。


(ん?)


人間の男の様だ。顔を上に上げ男をみやる。男はコージー並に人相が悪かった…眉間は狭く痣があり鬼眉だ。鼻は鷲鼻で目は三白眼だ。

ニヤニヤと下卑な笑顔を顔いっぱいに浮かべ大層気持ち悪い。

男が欲を含ませた声音で俺に喋りかけてきた…うっここからでも分かる…口の臭さ…最早即死魔法だ。


「よぉ可愛らしいお嬢ちゅあん…こんな所で蹲って如何したんだい?お兄さんが聞いてあげよう…ぐふふふふぅ」


男が俺の肩に触ってくる…おぇぇぇ!本当にキモいキモいキモい…くっっっっさ!近づかないでほしい!胃から物が迫り上がってくる…ゲロ吐きそうだ。それにお前"お兄さん"って年齢じゃ無いだろう!おっさんだろ!


俺の顔色が悪いと分かったのか男は更に俺の肩に腕を回してこう言ってきた。


「おやぁ?顔色が悪いねぇお兄さんが宿屋に送ってあげよう…ぐふっ…あぁ勿論何もしないからねぇグヘッ」


絶ッッッっ対なんかするやつ!!俺は遂に声を出した。


「お、お気持ちは有難いですが顔が白いのはもともとですので…お気になさらず…」


放っておいて下さい。離れて下さい。

そんな気持ちが伝わったのか男が離れていった。

そして目を釣り上げ唾を飛ばしながら捲し立てて来る。


「おっお前!男だったのか!よくも騙したな!このクソ野郎!死ね!この女装変態男!」


…したくてこんな格好してないわ!!!しかも女装してたって良いじゃ無いか!個人の自由だろ!!全国の女装している人に謝れ!この口臭おっさん!


男が激怒し此方にスキルを放ってきた。


「スキル! 高速打撃!」


ーーー頭おかしいのか?普通こんな道のど真ん中で戦い始める奴いる???てか全然高速に見えないんだが…


俺はそんな事を考えながら余裕で拳を躱していた。


男は攻撃が当たらないのに更に機嫌を悪くしたのか魔法の詠唱まで始めた。


「偉大なる炎よ!今我の力となり敵を燃やし尽くせ!中級炎魔法 炎弾ファイヤーパレット


街中で炎出すアホが居るか!!!今は戦闘を始めた影響で周りに人がいないがこのままでは露店や家に火が燃え移り火事になってしまう…それだけは避けなくては。俺は魔法を放った


「上級闇魔法 風化ふうか


魔法陣と魔法がまるで砂が風に攫われていくように崩れていく。


男は呆然と自分が作った魔法をみている。


「中級闇魔法 闇手ダークハンド


魔法を発動させ、人間の手の様なものが地面から現れ男の口を塞ぐのと同時に体を拘束し無力化した。

男は何か騒いでいるようだが全く身動きが取れていない。



騒ぎを聞きつけたのか騎士団がやってきた。俺は事情を話し、男の身柄を騎士団の人に渡しこの騒ぎに終止符を打ったのであった。








ーーー暫くしてピィナと再開した。


「良かった!ピィナ!やっと会えた!」


俺は笑顔を浮かべながらピィナに駆け寄る。

ピィナは少し機嫌が悪そうな顔と声音で話し出す。


「何処行ってたのよ!探したじゃ無い!」


ーーー心配してくれていたみたいだ。胸が暖かくなる。生まれてこの方心配されるなんて経験が無かったのだ…嬉しいに決まっている。


ピィナの話は続きがあった。


「何だか蛇を首に巻いた綺麗な女が闇魔法を使って暴漢を撃退したって聞いたけど…絶対にアンタよね?」


俺は黙る。そんな態度が気に食わなかったのかピィナの顔は般若みたくなっている。


「闇魔法が使えて蛇を首に巻いているやつだなんてアンタしかいないわよ!町であまり騒ぎを起こさないで!今回は仕方なかったけどアンタがS級の魔物だと知れ渡ったら大変じゃ無い!大人しくしててね!分かった?!」


俺は確かにと共感し、肯定する返事をし俺たちはギルドへの道を進むのであった。








ーーーーーこの時俺たちは重大なミスを犯してしまった事をギルドで気づく。それは





















俺の格好がフリフリのワンピースの上パンツを履いていないことであった。まさかギルドであんな事になるとは思いもしかったのだ。

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