第2話

ーーー時は遡る



『見ろよあいつだろ?スキル無し』


『うわぁ俺だったら恥ずかしくて死ぬわ』


『何で生きてるんだろうな』


はぁまたか…2匹のレッサーサーペントが俺を嗤う声を聞きながら、痩せ細っている体をずるずると引きずり住処の草陰に入る。


(今日も何も食べれなかった…)


そう。彼はかれこれ2日間水と草しか口にしていないのだ。今日俺が見つけた肉付きの良いホーンラビットやゴブリンは仲間たちに横取りされた。


この世界はスキルで出来ている。魔法もあるがなかなか使わない…いや使えない。発動まで時間がかかる事や魔力を消費したら疲労が溜まり、動けなくなったり覚えるのに時間がかかる。しかしスキルは何も力を消費しない上、生まれた瞬間から使える為皆魔法は使わないのだ。だが


ーーー俺はスキルを持っていないため魔法しか使っていないのだ。


だから今日の狩りも俺が魔法陣を構築している間に他のスキルもちの仲間に狩られてしまったのだ。


「…シャァ…(…はぁ…)」


思わずため息を付いてしまう。


「シャァシャシャ…(如何しよう…このままじゃ餓死するぞ…今日は野草や木の実を食べれば良いが…明日や明後日は…)」


1人でボソボソ呟いた。


群れに入れば多少は変わるのかもしれないと俺は群れに参加しようと時期もあった。しかし俺はスキルを使えない為馬鹿にされ罵倒され群れにいれてもらえなかった。俺を産んだ親は俺が産んだ後死んでしまい誰にも助けを求められないのだ。


(このまま生きていけるのかな…死ぬのだけは絶対に嫌だ!死んでも生きてやる。そしていつか仲間等を見返してやるんだ!)



住処の草陰に着き長い体を丸める。星辰しんは考え事をしながら空腹を紛らわす為眠るのであった。



そんな日々を送っていたある日。俺は今日も獲物を横取りされた為いそいそと木の実を食べていた。


(…あぁ肉が食べたい…。)


呑気にそんなことを考えていた。

食事を終えた住処に帰ろうとした時に会ってしまったのだ。



ーーーーB級冒険者コージー・ダストクズに


(ヤバい!人間だ!逃げろ!)


俺は後退しながら闇魔法「黒霧くろぎり」を展開する。この魔法は黒い霧をだし相手の視界を遮る

無駄に長い体を必死に引きずる。


「へぇー!闇魔法使えるのかァ…珍しいなァ。俺様の従魔にしてやるゥ…光栄に思えぇ。」


コージーは此方に手を翳し魔法を使った


そう人間は言った後俺に従属魔法をかけた。


(殺さないのか?)


「精々俺様のやくにたてよォ?」


捕まったのは正解だったのかもしれない。だって従魔になれば食事と住む所は確保される。

最低限…いや他の仲間たちよりも裕福に暮らせるかもしれない。この時の俺はそんな事を思っていたのだ。




それから暫くしてコージーは俺を連れて町に帰る。コージーはB級冒険者だ。こんな辺鄙な場所にある冒険者ギルドでは凄いと持て囃されているのだ。



取り巻きの…小太り気味な男と化粧が厚い女がが俺に気付きコージーに声をかける。


「さっすがコージーさんでふ!B級の魔物を従えるだなんて!」


「えー!すごぉい!さっすがヨーエのコージーだねぇ♡」


「ははっ!俺様に掛かればァこんなの朝飯前だァコイツスッゲー攻撃ィしてきてなァ」


上から小太り気味な男ユールーズ、化粧が厚く香水の臭いがきついヨーエ、そして人相の悪いコージーだ。

…いやコージーお前逃げ惑う俺を捕まえただけじゃ無いか。攻撃なんてしてないぞ


「コイツ闇魔法属性なんだよォ」


「闇魔法!すっごいです!拙者見た事ないでふ!」


「えぇ!そぉーなのぉ!ヨーエ闇魔法みたぁい♡」


…闇魔法と言っても初心者でも使える魔法しか使えないんだが???


「良いなァそれェよしっ!コイツのステータスを見るかァ」


(ヤバい!俺がスキル無しだとバレる!)

俺は抵抗しようとするが従魔の魔法の効果で命令に逆らえずステータスを開示してしまったのだ。


「何だァコイツ…スキルねーのかよッ!とんだ塵だなァ!つっかえねー!魔法も初級しかつかえないじゃないか!」


やはり俺は馬鹿にされる運命なのだ。


「コージーさんこいつ如何するんですか?」


「ねぇコージーぃコイツぅどーするのぉ?」


コージーは苛立ったような表情を浮かべ考え込み。


「コイツァ荷物持ちにするゥ。それしか使い道がねーだろう。」


良かった!殺されずに済むみたいだ!俺は安堵した。


「じゃあさっさと失せろォ雑魚ォ」


俺は命令に従い森に帰った。今のおれの気分は最高だった!


(殺されずに済んで本当に良かった!)


ーーーだが俺はこの時気付いていなかったのだ。今森に帰ってたら前の生活と変わりないと。食事は保証されず住処も草陰。それどころか呼ばれたら無償で働かないといけない最悪だ。


それに気付いたのは次の日だった







1ヶ月が過ぎた。


今日はヨーエ等とパーティーを組み、D級の魔物が住む森…『漆黒の森』に来ていた。俺はコージーの命令で重い荷物を運んでいた。

今の俺の体はボロボロだ。魔力も回復しない。少しでも気にそぐわないと鞭を打たれていたからだ。コージーだけでは無くユールーズやヨーエにもストレスの捌け口として殴られていたのだった。


(もう嫌だ…だが殺されたく無い!命令に大人しく従うしか無いんだ…)


そんな事を思いながら進んでいく。


今回コージーが受けたクエストは『ゴブリンの間引き』大体10匹程度狩れば良い簡単な依頼だった。


コージー達は特に苦労をせず余裕そうにゴブリンを殺した。殺した後はギルドに依頼をクリアしたという証を見せる為ゴブリンの耳を切る。


「あァ余裕だったなァ!」


「コージーさんの剣技は素晴らしいでふね!」


「あー早くぅ帰ってお風呂に入りたぁい」


そんな事をコージー等が話しているそのとき"アレ"が来たのだ。そうグリフォンが。


コージーたちはグリフォンを見るや否か一目散に逃げる。そしてグリフォンから逃れた時俺の運命が変わったのだ。


「このままじゃァ見つかるのは時間の問題だァ」


「どーするの!コージーぃ!」


「如何するでふか!」


コージー以外の2人が騒ぎ立てる。

そしてコージーがニヤリと顔を歪ませ言い放った。


「よし!雑魚サーペントお前が囮になれ!」


(はっ???)


俺は言われた事が理解できなかった。したくなかった。だってそれではまるで…死ねって言っているものじゃ無いか…


ユールーズ等はその案を妙案だと囃し立てる。


そしてコージーが


「よし!コレが最後の命令だァグリフォンへの生贄になれ!そして命令が遂行された後俺たちは従魔の契約を破棄するゥ!」


いやだいやだいやだ死にたく無い!動きたく無い!

俺の意思に反して体はグリフォンの方に向かう。

そしてグリフォンの視界に入る。


(あぁぁぁぁぁぁ!死にたく無い死にたく無い!)


『ガァァァァァァァァァ』


グリフォンが此方に向かって爪で引っ掻く攻撃をしてきた。俺は何も出来ないまま恐怖でこわばった胴体を抉られた。

グリフォンは虫ケラでも弾く様に俺を蹴る。


(あ"ァァァァァァァァァァ!)


漸く強烈な痛みを感じたのだった。


(痛い!熱い!痛い!熱い!痛い!熱い!痛い!)


痛みを思い出すと共に自分が今吹き飛ばされていることと胴体が抉られている事に気付いた。


次の瞬間には木に激しくぶつかっていた。

体中の骨がバキバキと音を立てながら折れ内臓が傷つく。


「シャッ(は…?血)」


口から血の塊を吐き出す。出てはいけない量が出ていた。それにも驚くが俺は今かつて無いほど冷静だ。


ーーーあぁ俺死ぬんだな。



思えばずっと死と隣り合わせでいた。死なんか本当は怖くなかったのかもしれない。



ーーーただ。


(まだ俺は仲間を見返していない。コージーたちを呪っていない。ーーーもっと俺が強かったら…)


そんな事が頭に過ぎる


スキルがあれば友が出来ていたのかもしれない。

力があればコージーたちに虐められなかったのかもしれない。

もっともっと強かったら。大厄災級の力を持っていたら。


「クソクソクソ!全員殺してやる!呪っやる!呪ってやる!呪ってやる!」


俺は激怒していた。怒りで目の前が赤くなるほど怒っていた。


その怒りを体現するかのように俺はグリフォンに巻きつき攻撃をする。

だがグリフォンはお構いなしに俺の尾を噛みちぎり頬張る。


(ーーーッッッ!)


俺は体の一部を喰われた事にショックを受けつつも攻撃をする。

どんなに締め付けても瞬きひとつしない姿に俺は絶対に勝てないと分かった。


(もっと俺に魔力があれば…スキルがあれば…強ければ…)


コイツに勝てたのかもしれない。生きれたのかもしれない。


ーーー俺は後悔しかまだしていない…こんな所で終われない!


俺はふと閃く…もしかしたら目の前の強敵を喰えば新しい力が…スキルが身に着くかもしれない…だって俺たち魔物は敵を喰えば喰うほど強くなる。そう思い、殺したい。呪いたいという気持ちだけで俺は動く。最後の力をを振り絞り俺の事を嘲笑っているグリフォンの首筋に噛み付いた。


『ガァァァァァァァァィァッッッ!』



どんどん牙を食い込ませていく。そして噛みちぎった。

ーーー旨い。今まで食べてきた中で1番美味かった。



『ガァァァァァァァァァァァァッッッ!』


グリフォンは怒りの咆哮をあげる。

馬鹿にしていた虫ケラに自分の首筋を噛みちぎられたのだ。

グリフォンは体を捩らせ拘束から逃れそのまま俺の体を吹き飛ばす。

もう力が残っていない俺はそのまま地面を転がり木にぶつかる。


(呪う。呪う。呪う。呪ウ。呪ウ。ノロウ。ノロウ。殺してやる殺してやる!呪ってやる!)


そんな事を考えていた時体に異変を感じる。


(ーーーあっ?)


俺の様子が可笑しいことをグリフォンも感じたのか俺から離れる。


(ーーーー頭の中に声が響く)




ーーー《規定レベルを超えました。アークサーペントに進化します。》


ーーー《成功。規定レベルを超えました。コブラに進化します。》


ーーー《成功。規定レベルを超えました。大蛇オロチに進化します。》



俺の肉体が変化していく。



ーーー《進化に伴い魔力向上と闇魔法の強化がされました。》



魔力が漲る



ーーー《常軌を逸した呪いの感情により、呪王じゅおうの資格を得ました》



呪王…???



ーーー《大蛇・星辰に呪王のスキルを授けます》



ーーー《成功しました。》



ーーー《大蛇・星辰にスキル「共食い」を授けます。》



ーーー《成功しました》



ーーー《スキル 魔法詠唱省略を授けます》



ーーー《成功しました。》



ーーー《進化成功報酬としてスキル「超回復」「状態異常耐性」を付与します。》



ーーー《これにて存在進化を終わります。》



俺は力が流れ込むのを感じた。


(何故だろう。目の前の敵が弱く感じる。)


グリフォンに向かい闇魔法「終焉」を放った。

俺が放った魔法は空間を歪ませながら進んでいく。

そしてグリフォンに直撃し跡形もなく消滅した。


グリフォンの消滅と共に俺は力の反動か、疲労か眠くなる。もう抗う力は残っておらずそのまま意識を闇に落としたのだった


辺りは静寂に包まれた

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