それぞれのエンドロール
城に戻ったローガンは魔法の絨毯に乗って
王国まで戻る途中
自分の中にある心の一部が
砂に書いた文字のように
掻き消えていくような瞬間を感じ取っていた
ジェレミーがこの世から消えたのだろう
妙な感覚を経験した今となっては
もうひとりの自分は幸せだったのだろうかと
ふと考えがそこに至った
黙って城を出たことは幸い他の者が見ていなかったので
今日の出来事はミクチェルはまだ知らない
しばらくして、ミクチェルが城を出て孤児院で働くということが決まった
家事や料理の腕と持ち前の明るさを料理人から評価され
ローガンとの婚約解消に
晴れて自由の身になれたのだ
教会のまえで別れの言葉を交わす際
ミクチェルはローガンにひとつ提案した
「ねえ、あなたが知らないあたしの秘密
知りたい?」
「なんだよ」
「あたし魔法使いに願いごとしたの
あなたと結婚したくなくて」
「おれに痩せてほしかったか」
「ううん、でもあなたはジェレミー王子が持ってない大切なことを教えてくれたわ
だから感謝してる、今でも」
頬にキスをしたあと、彼女は馬車の中へ入り
振り返ろうとしなかった
「さよなら、ローガン王子」
ローガンはそんな彼女の背を見送る途中で
あることに気が付いた
彼女はガラスの靴を一足しか
持っていなかったのだ
「あいつ、あんなに大事にしてた
ガラスの靴を一足しか持ってなかったぞ
壊れたのか?」
「王子さま、それは違うと思いますよ」
青い鳥が少し困ったようにそう付け加えた
ローガンが部屋に戻ると片方のガラスの靴が
ミクチェルの部屋の窓辺に置かれていた
半年後、教会から少し離れた丘の上に
ジェレミーの銅像が建てられた
クラーク王国の人びとは彼をして
幸福な王子と呼んだ
後にジェレミーがローガンから
創り出されたドッペルゲンガーだと知らされた
ミクチェルは
しばらくいなくなったジェレミーを想い
寂しそうにしていたが
新しい生活の中で日差しの似合う笑顔を
絶やさない毎日を送っている
ジェレミーと変わらない容姿になったローガンはジェレミーが着ていた
王子の礼装に着こなせるようになっていた
「見てみろよ、サイズぴったりにまでなったぜ、痩せた喜びを実感できるのは
元デブの特権だよな」
「もうピエロの仮面は必要ないわ
あなたはクラーク王国の真の王子さまよ」
王妃は痩せたローガンの左頬に手を添えて
優しく彼をそう讃えた
だが、気持ちに整理がついていなかったのか
先に存在が消えた幻の友に
ローガンはジェレミーの銅像のまえで
涙をこらえながらひとり話しかけていた
「おまえ、ずるいぞ
まだ決着はついてなかったじゃねえか」
そう悲しみにくれていると
ジェレミーの銅像のまえで
ひとりの少女が隣に立った
「この銅像、あなた?」
「いや、おれじゃない王子さま
かっこいい方の」
「昔彼に恋をしたわ
今ではもう二度と会えなくなってしまったけれど」
艷やかな黒い髪を肩に届くまで伸ばしたその少女は
寂しげにそう言い残すと
ジェレミーの銅像のそばから離れ
立ち去ろうとしたが、ローガンは
何か思うところがあったのか
背を向けて立ち去ろうとする彼女に声をかけた
「君、もしよかったら顔を見せてくれないか」
振り向いた東方の国の美女イリアは
初めてあのときジェレミーのふりをした
顔の見えなった少年と再び出逢った
今度こそ誓おう
ハッピーエンドに終わる物語を目指して…
ぼくは服を着たプリンセスに興味はない! 〜さっきブロンドの姫君に逃げられた陰キャ王子だけど、今夜だけは君とロイヤルラブコメ展開を期待していたんだ…!! 桜井和宏 @sketchwip
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