真実の愛

雲の切れ間から月明かりが照らし出される中

手にした剣の先を王子へ向け

ジェレミーはこちらを振り返る


覚悟を決めたジェレミーは

剣を静かに縦に構えると

東の国の王子に斬り掛かった





一方でイリアは咳き込むと

意識を取り戻したのか助けてくれたジェレミーに心から願い出る


「…げて…逃げて…ジェレミー

お願い…」


ローガンはその弱った声色と苦痛の表情に

心を痛ませながら黙ってその言葉をきいていた


「わたしから…逃げて…」


イリアの願いを聞き入れ次第

ローガンは彼女をパニックにならないよう

落ち着けるため、抱き寄せて優しく謝罪した


「ごめんね、ここじゃ逃げ場がないんだ…」


魔法の絨毯の上にふたりでいる状況を

ローガンはとっさにジェレミーに似た話し言葉で応じたが

声がまったく同じなせいか

イリアにはジェレミーと思われただろう


イリアは今自分を抱きかかえてくれている声の少年の顔を見てみたいと想いから

月の眩しい光に瞳を僅かに開けようとしたら

彼の指先で閉じられた

その際に一筋の涙がイリアの頬を伝い落ちる


イリアはそのあと朧気おぼろげな記憶と浮遊感に包まれながら安心して眠りに落ちていくように目を閉じた


魔法の絨毯でローガンはとある古びた教会のまえで呼び止められた


「イリア!」


「大丈夫だ、気を失ってるだけだ」


イリアの父親が娘の無事を確認するため

魔法の絨毯に駆け寄ってきた


「助けにきたんだよ

まだもうひとり仲間が戦ってるから

おれはすぐいかなきゃならねぇんだ

姫さまのこと頼んだぜ」


魔法の絨毯にイリアを寝かせたローガンは

父親に事情説明すると、頭を下げた


「ああ、ありがとう」


そのとき、ローガンの腕に痛みが走った


「じゃ、いってくるぜ」


すると、先ほどまで狼のように身体が変化しかかっていた彼女は

元の東方の国の美女と名高き美少女へと

姿が戻っていた

呪いの効果が解けたのだ

当の本人は眠ったままで

気付いていないようだが…


「青い鳥

彼は…いったい…?」


「なあに、わたしたちのあいだでは

白馬の王子さまといったところでしょうか」


東の国の王子はジェレミーとの決闘で

相手を甘く見すぎていたのが、仇になったか

押され気味で攻撃を受けていた


ジェレミーは巨体ではないが

ローガンよりスピードがあるため

相手の隙をついてジェレミーは

王子の前髪を斬った


「なっ…今どれだけ切った?」


そのときジェレミーは剣で王子を突き立てた


「ぎゃああああ!」


その絶叫はローガンの耳にも届いていた

ジェレミーの痛みが手に取るようにわかる今では彼が止めをさしたのだろうか


だが、ひとを殺す使命には立ち向かえるだろうか

森を抜けると大木の近くで戦っている

ジェレミーと東の国の王子の姿を探し当てた


「降参だ!

姫が欲しければくれてやる!」


「イリアとはもう二度と関わるな」


「わ、わかった…」


東の国の王子は剣の柄で気絶させられ

彼に鬱憤が溜まっていた部下たちが反旗を翻して、彼を捕らえてジェレミーとローガンへ頭を下げた


まだ納得いかない様子であるジェレミーだったが

イリアのことを考えるとひとまず先に

彼女の元へ戻ることが最優先だろう


ローガンが自ら東の空の王子を

クラーク王国へ連行することに決め

贖罪を果たすよう家臣たちとともに

西の国を後にした


魔法の絨毯とローガンのおかげで一命を取り留めたイリアは教会で眠ったままであった


駆けつけたジェレミーはそんな仮死状態で眠っているように見えるイリアの息がまだあることにほっと安堵すると

自分の使命を果たすために思い出した


ぼくはこれで消えてしまうんだ…


すると、あの公園で出逢った少女が

一筋を光の粒子が舞う中で姿を現した


「3つ目の願いごとを叶えるときみたいだね」


「そうだね

もう君が人間じゃなくても

ぼくは驚かないよ、魔法使いさん

願いごとを叶えてくれるんだよね?」


「約束するよ」


真実の愛のキスでジェレミーは

奇跡を起こすと願いを込めて

彼女の唇にキスをした


「どうか、君が真実の愛に恵まれて

愛するひととしあわせになれますように」


呪いはすでに解けていたからこそ

彼はイリアの願いが叶うよう口に出して

さらさらと光を輝かせながらかき消えていった


「優しいひと…

あなたも願いが叶えばよかったのに」


魔法使いは杖を一振りすると姿を消してしまったが

代わりに教会でイリアが目覚めの瞬間を迎えた



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