信頼すべき「物語」など、どこにも無い。

「物語」というものの虚構性を突き詰めるとこうなるのかと思わせる、不安定さが美しい「物語」だと感じました。

※ここからネタバレしかありません。

居なくなった彼女を探すために見つけた、彼女が書いたと思われる手記が嘘であることを検証するうちに、彼女が実は妹であり、自分の積み上げてきた記憶すら嘘であることに気づき、そもそも自分の存在すら虚構かもしれないと突き付けてくる展開の鮮やかさ!
記述されたものや、記憶、創り上げられた物語へ繰り返し向けられる不信の眼差しが、最後に自分の存在の否定に繋がる様は、ミステリーのように巧妙でとても美しい構成だと思いました。

そして、自分の存在が嘘か真かハッキリとは書かないラストの、良い意味での不安定さに、今こうして読んでいる文もまた「物語」であり、信頼に足るものであるのか?と突きつけられているように感じ、物語がどこまで行けるか?という遼遠小説大賞にピッタリの作品だと感じました。

あと、彼女(あるいは妹)である「理夢亜」(もしくは「理亜夢」)の名前も面白いなと思いました。
「亜」は、準ずるものとか次ぐものとかいう意味があります。
理(ことわり)が夢に準ずるものであるという名前が、まさに彼女を体現していて、よく練られた名前だと思いました。(深読みだったらすみません)

X(旧Twitter)でサトウさんの140字以内の掌編をよく拝読しているのですが、短い話の中できっちりオチを付ける構成の妙やストーリーの面白さが、1万字を超える本作でも遺憾無く発揮されていて、舌を巻きました。
素敵な作品に出会わせてくださってありがとうございました。