第10話
「あいつは」
ユニークの頭にしがみついていたちっこいリザードマンだ。
ちっこいリザードマンは動かなくなったユニークを見下ろして、そして、蹴り飛ばした。
「くえ! くえ! くええ!」
「な、なんだ?」
なにしてるんだあいつ。まるでユニークを罵ってるように見える。
しばらくすると、ちっこいリザードマンは蹴るのをやめた。
「くえええええええええええええ!」
どこからそんな声がでるのか疑問に思うほどの大声でちっこいリザードマンが鳴くと、周囲の攻撃がぱたりと止んだ。
「攻撃が、止まった?」
「なになに? なにがおこってるのさぁ」
「まさか……マスター! すぐにそのリザードマンを殺してください!」
オルテガが発砲するも、ちっこいリザードマンは俊敏な動きで銃弾を回避してゴミ山の中に潜って行った。
「オルテガ!? いったいなにが起きているんだ!?」
「ユニークを見てください!」
オルテガに言われた通りユニークの亡骸を見てみる。
亡骸をよく見てみると、皮膚の色が斑らになっていた。
まるで違う種類の体を繋ぎ合わせたみたいな縫合の跡もある。
一見すると手甲のように見えていた腕も、実は手甲そのものが機械で作られた腕だとわかった。
「なんだこいつ、これじゃまるで改造されたみたいだ」
「まさにその通りなのです。おそらくこの個体はユニークではありません。通常のリザードマンを繋ぎ合わせ、さらに機械化して作られた存在。そしてこの個体を作った張本人こそが真のーーーー」
大地が悲鳴をあげるかのような地鳴りが発生して、オルテガが銃を構えた。
俺もミリィを庇いつつ周囲を警戒する。
すると、ゴミ山が盛り上がり、中から巨大なロボットが姿を現した。
「くえええええええええ!」
あのちっこいリザードマンの雄叫びが拡声器を通して周囲に響き渡る。
鉛色のドラム缶のような姿のロボットは、鉄板のような足で他のリザードマンを踏みつぶしながらこちらに迫ってきた。
「まさか、そんな、嘘だろ……」
「ここにいるリザードマンのボスは身体能力特化ではなく、頭脳特化型。つまりあの小さい個体こそが本当のユニークだったのです!」
「そ、そそそ、そんなことより、早く逃げようよー! きゃー!」
ロボットがアーム状の腕で殴りかかってくる。
俺はミリィを抱き抱えてすぐさま走り出した。背後の地面が陥没して砂塵を巻き上げるも、かまわず走る。
「クソ! あんなのどうすりゃいいんだ!」
「ひとまず身を隠しましょう!」
「っていったって、逃げ切れるかわかんないぞ!」
「僕に任せて!」
ミリィが鞄の中から大量の発煙筒を取り出して着火。
周囲にばら撒いたことで煙が俺たちを包み込んだ。
「今のうちにゴミ山に身を隠して!」
「ナイス、ミリィ!」
ゴミ山の中に頭から飛び込んで身を隠す。
ロボットは俺たちを見失ったのか、周囲をウロウロし始めた。
「さて、どうするかな」
「あれでは銃も効きそうにありませんね」
ガラクタの中でぎゅうぎゅうに詰まりながら、オルテガは苦々しく舌打ちをした。
「そうだ、あのビルは使えないかな」
「ビル?」
「そうそう、あのビルを倒してロボットをおしつぶすんだ!」
「どうやってビルを倒壊させるというのです?」
「セムテックスがあるよ!」
ミリィは鞄の中から四角く整形された粘土のような物を取り出した。
「セム……テックス?」
「プラスチック爆弾のことです、マスター。しかし、よくそんなものを持っていますね」
「えへへ! よくここにきて集めてたんだ!小さい頃はこれで粘土遊びしていたんだよ! 」
プラスチック爆弾で粘土遊びとは、終末世界ってワイルドだな。
「材料があるのはわかった。じゃあ次はどこに仕掛ければいいかだ」
爆弾の量は限られている。むやみやたらに仕掛けたところでビルを倒壊させることはできないだろう。
「計算はお任せください。わたくしが仕掛けるポイントを絞り込みます」
「頼んだ」
「爆弾を仕掛ける間、僕がロボットを引きつけるよ!」
「できるか?」
「大丈夫、いざとなったら穴を掘って隠れるから! 爆弾の設置は二人に任せたよ!」
「よし、じゃあ作戦開始だ!」
まずはミリィがゴミ山から飛び出し、発煙筒を焚いてロボットの注意を逸らした。
「おおーい! こっちだよでかっちょー!」
うまく誘導できたみたいだ。
その間に俺とオルテガはミリィと反対方向。町で一番大きなビルに向かって走り出す。
事前にオルテガから聞いておいた
「よし、これで最後だ! オルテガ、こっちは全部設置できたぞ!」
スーツの首元についているスイッチを押すと、骨伝導通信を通してすぐに返事がきた。
「こちらも完了でございますマスター」
「なら急いで誘導地点に向かおう!」
「イエスです、マスター」
俺たちはビルに隣接している線路に登って発煙筒を焚いた。
あとはこの煙を見たミリィがこっちにロボットを誘導するだけ。
遠目に見えるロボットがゆっくりと振り返った。どうやらミリィはこちらに気づいたみたいだ。
さあ、あとは倒壊に巻き込まれない場所まで非難するだけだ。
「ぎゃぎゃぎゃ!」
「ぎゃおおおお!」
「余計な奴らまで引き寄せちまったか!」
煙を見てやってきたのか、リザードマンの群れが次々と線路上に出現した。
「マスター! こちらへ!」
オルテガに先導してもらいつつ、リザードマンを蹴散らしながら進んでいく。
日暮れが近い。俺たちは夕日に向かって走り出した。
かつては駅舎だったであろう建物の屋根を伝って地上に降りる。
駅前広場の中央でリザードマンの群れに囲まれて蹴散らしていると、地響きが近づいてきた。
空を見ると、駅舎の上からこちらを覗き込むロボットの無機質なライトが目に入った。
「いまだオルテガ!」
「わかりました!」
オルテガが握っていた起爆装置のスイッチを押し込んだ。
連続で轟く爆音。数泊遅れでビルが傾き、ロボットの体を横から押しつぶした。
「よっしゃあああああ!」
「やりましたね、マスター!」
「ちょっとちょっと! 僕のことわすれないでよぉ!」
駅舎の中からミリィが現れて合流。
無事だったみたいでほっとした。
「さて、ようやくユニークを倒せたわけだし、これでゆっくりと……ん?」
なんか変だ。ロボットはビルに押しつぶされてもう動いていない。
爆発も止んだ。
なのに、地面が揺れっぱなしだ。
「あれ、なんか、地響きが長くない?」
「不味いですマスター」
「どうしたオルテガ?」
「どうやらこの町の地下には空洞が広がっているようでして、このままでは……」
「このままではって……おいみんな! すぐに手を繋げえええええええ!」
俺がいうが早いか、足元に亀裂が入り、それから胃が浮くような浮遊感に襲われたのだった。
メタリカ・サンライズ 超新星 小石 @koishi10987784
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