第56話  帰還

{そなたは、珍しいタイプの精霊だな}


 創世神に言われて、皆の視線がリカルドに集まった。


<普通の風の精霊だよ>


{人間の気配の強い精霊ぞ}


『確かに、我らとは時間軸が違う者ですからね』


 イリアスの言葉に、アンナレッタが、割り込んできた。


「リカルドは精霊になって、まだ五年くらいだ。当たり前だ」


『もともと風の加護のある者だから、力の加減も分からぬか』


{そちらのもと人間の精霊}


 創世神が、リカルドに声をかけた。


<へ?>


{ワシの力で、もとの世界に戻してやれるぞ}


 アンナレッタは、ビックリしてリカルドを見上げる。


「生まれた時代に帰りたくはないか?}


<俺は、精霊として生きるんだよ。未来に帰っても身体がないんだせ>


{その事ならば……}


 創世神が、言いかけたのをイリアスが止めた。


『では、父神、我らは失礼する。ここでは時間が存在せぬが、神殿の消失より一年以上経過しているとのこと。流石の人間たちも慌てていることでしょう』


{ディハルドの事は頼んだぞ}


『承りました』


「幻夢界にも寄って来たから、もっと経ってるかもな!!」


 アンナレッタの嫌味に、イリアスは高らかに笑った。


『我の力で、光の神殿を戻す。そちらの者は神官か!? こちらに来なさい』

 

 創世神から離れていたとことにいたアーロンを呼び寄せると、イリアスは、パチンと指を鳴らした。

 その音で、アンナレッタの視界が暗くなった。


 アンナレッタが、再び目を開けるとそこは銀の森だった。

 光の神殿は、以前の場所に戻っていた。

 彼女の近くに、イリアスの姿はすでになく、アーロンは、走って光の神殿に入っていった。


「ザイラス様!! ユリエ様!! ハウル様!! ご無事ですか~~?」


 大きな声が木霊して、神殿の中から怒鳴り声が聞こえてきた。


「「神聖な神殿で、大声を出すとは何事か!!」」


「全く、西域の姫が来ているなどと呼び出して……。だまし討ちだ」


 時間が動き出したのだろう。

 父のアンドレアが、神殿から怒って出て来た。


 アンナレッタは、頭上のリカルドがいないことに気がついた。どうしたのだろう? 後でイリアスに聞くことにした。


 その事よりも今は父の帰還を喜びたかった。

 光の神殿の門のところで、父を待つことにした。

 良い顔はしないかもしれない。

 でも、どうしても言いたかった。


 やがて、アンドレアがやって来た。


「アンナレッタ? どうしたのだ? そなたが光の神殿へ来るなぞ」


「いいえ、父上のお帰りを待っていたのです。お帰りなさい、父上」


 アンドレアは、訳が分からなかったが、アンナレッタは、不可思議な旅が終わったことを感じて、父の懐に飛び込んだ。


「アンナ?」


 アンドレアは、ビックリしつつも拒絶しなかった。

 思ったよりも大きくなっていた一人娘を抱きしめた。



(完)

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