第54話  創世神の夢の中

「なんだ!? それは?」


 アンナレッタは、アーロンの取り出した竪琴を見て言った。


「大神殿にあった、光の神殿所有のハーブです。ここが、創世神の夢の中だというなら、穏便にいった方が良いと思います」


「さっき、大声出してたのは誰だよ」


 アンナレッタは呆れて言った。


「それは、この光の神殿の中です。この空間は創世神の夢の中ですよ。

 このハーブの音は、人ならず者にも届くと言います。

 かき鳴らしてみましょう。取り合えず、万物の神を讃える歌を……」


「そんな歌が、あるのか!?」


 アンナレッタは初耳だった。


「光の神殿の一部の神官にしか、伝えられていません」


「そうなのか!?」


 アーロンは、コホンと咳払いをして、ハーブをかき鳴らして、歌を謡い始めた。

 彼は、男にしては幾分高めの声だった。

 アンナレッタは吹き出しそうになったが、しばらく後に目眩がしてきた。


 一瞬、意識が飛んだ。


 次に気が付くと、銀色に輝く空間にいた。

 アンナレッタ達の数倍の大きさの獅子の顔、身体は人族という神が目の前にいた。


「パキュア創世神か」


 アンナレッタは、独り言を言った。


{我の意識に、誰か侵入したものがいるな!?}


 アンナレッタとアーロンは身構えた。


 頭の中に直接、聞こえてきた声だ。


『光の神殿の誰かが、目覚めたのかも知れませんね?』


{あの中に、ここまで来れる力を持つ者はいない}


 銀色に輝く世界に目が慣れてきて、そこに人型のイリアス神の姿を見つけた。


「イリアス神だな!?」


 アンナレッタが言った。


 イリアスは、アンナレッタとリカルドと、アーロンを見た。


『そなたたち、どうやって、ここまで来たのだ!?』


「光の神殿が消えて、そろそろ、一年は経つぞ。心配になるだろ?いろいろ、情報を仕入れてここまで来たんだ。

 顔が獅子で、身体は人族……パキュア創世神だな。

 何の気まぐれで、神殿ごと誘拐なんてするんだよ!!」


 アンナレッタは、創世神に向かって怒鳴った。

 イリアスは、それを阻止して言った。


『こら、人の子。この方を創世神と知って、言ってるのか。

 光の神殿を巻き込んでしまったのは、我のせいだ。

 再三の父神の呼び出しに応じなかった我のせいなのだ』


 イリアスが申し訳なさそうに言った。



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