第52話  父の真意

 建物の大きさが、十分の一ほどになっていたが、紛れもなく光の神殿である。

 遅れてやって来た、アンナレッタとアーロンも驚いていた。


「でも、これでは中の様子も分かりませんよ。皆様のご様子も」


 アーロンが言うと、


「幻夢界は、記憶を具現化できる空間だっただろう。リカルドに肉体があるような錯覚をおこすような……ここも、そんな空間ではないのか!?」


「つまり、僕たちが神殿に入りたいと思えば、入れると!?」


 アンナレッタは頷いた。

 リカルドは、アンナレッタの頭上に戻っていた。


 アンナレッタとアーロンは、一生懸命に念じてみた。

 光の神殿に入りたいと。

 そして願いはかなえられた。


 気が付くと、二人は神殿の中にいた。



 神殿の中は静まり返っていた。


 アーロンが大きな声で、大神官の名を叫んで神殿の中を探して回った。


 アーロンの声が離れた場所にいた、アンナレッタの所にまで届いた。

 それだけ、神殿内が静まりかえっていたという事だ。

 やがて、アーロンの声が聞こえなくなった。


 アンナレッタも、その訳を知った。


 神殿内の時間が止まっていたのだ。


 消失事件の起きた当時、神殿には十数人の神官と巫女がいた。

 そして、エル・ロイル家の当主の見合いの日であった。


 貴人の通される応接室に行ってみると、父のアンドレアがいた。


 どこぞの姫が、ハンカチーフで目を抑え泣いていた。

 父は姫が気に入らなかったのだろう、怒った顔をして帰ろうとしていた。

 それを抑えている、大神官。


 それらが、時間の止まったように、動かないでいた。


 アンナレッタは、クスリと笑ってしまった。


「どうしたのですか!?アンナ様」


「父上は、あの姫君とも再婚なさらぬようだ。そうすると、私がエル・ロイル家の直系として、あの家を継ぐことになる。本当は、父上に再婚をしてもらって、私は冒険者にでもなりたいと思っていたのにな……」


「アンナ様は、アンナ様ですよ。それよりここから、どう帰るのか分かりませんし」


「そんなの決まってる。創世神に帰してもらえば良いんだ」


 アンナレッタは、楽観的に笑った。


「リカルド~」


<ん!?>


「戻ってもずっと、お前の契約者は私だからな」


 アンナレッタの笑顔に、リカルドはこそばゆい気持ちになった。

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