第25話  バリュ辺境伯、アントワーヌ

 ヴァーレン皇王、伯父のエミリオットのおかげで、セレンシア村まではリカルドの力を借りて、つつがなく旅は進んだ。


「なぁ、ディアルってなんだ?」


 道中で気になっていたことをアーロンにぶつけてみた。

 だが、アーロンは口ごもって話さない。

 今もリカルドが、アーロンを抱き抱えている状態である。

 怒った、アンナレッタが言った。


「リカルド……手を放しても良いぞ」


 <良いのか!?こんな所で……?>


「やめてよ~ 僕の家で祀っている神の名ですよ~ 夜の世界を支配してるんです。ゼナという夜に咲く大輪の花が、香りと花びらが光って旅人を導くって言います~」


「なんで、異教徒がロイルの神官になってるんだ!?」


「ち、父に言われたんですぅ。今はロイルの神の時代だから……学んで来いと……」


「ふ~ん……」


 アンナレッタは、それで創始の言葉が理解出来たのかと、合点がいった。


 <間もなく、着地するぜ>


 リカルドは、ティエリ山脈のある谷合の所を旋回した。


「風の騎士、あの霧の深い所に着地してくれ」


 <承知>


 アンナレッタとアーロンは、地に降りた。

 周囲の霧は深く、本当にこんな所に人が住めるのかと思える所だった。

 霧が深くなっていく方向に進んで行った。


「仕方ない!!覚えたての呪文を試してみよう」


 アンナレッタは覚えたての火の精霊を呼ぶ呪文を言ってみた。

 途端、ポワンと小さな火の精霊が現れた。


《悪いが、道を作ってくれ》


 火の精霊は、アンナレッタ達の前を行き、霧を晴らして道を作っていった。

 一刻ほど歩いて行くと、急に霧が晴れて来た。

 そして、人里が現れた。


 アンナレッタは、銀の森に帰って来てしまったのかと思った、

 リドムの樹がそこら辺に生えていたのだ。


「ここが、セレンシア村か?」


 アンナレッタとアーロンがキョロキョロしていると、スッと前から声がした。


『ようこそ、外の世界の娘よ。』


 アンナレッタはビックリした。

 声の主は長身で、銀髪と銀色の瞳をしていたのだ

 レトア語で、話しかけてきた。


『一応、挨拶をしておこう。私の名はアンナレッタ・エル・ロイルだ。精霊族の知恵をお借りしたい』


『私はこの里の長、アントワーヌ・バリュだ。精霊族とはとんだ昔話だな』


 アントワーヌは笑いながら、自分の館にアンナレッタとアーロンを誘っ

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