第15話  父のアンドレア

「父上。お帰りなさい」


 アンナレッタが、長身で細マッチョの長い銀髪を後ろで、束ねた美丈夫の父のアンドレアに挨拶をした。

 アンドレアは、ジロリとアンナレッタを見ると大きな溜息をついて、館に入って行った。


「ほら~」


 アンナレッタがサヤに向かって言った。


「もう少し、愛想よくなさいませ。アンナ様」


「私のせいか!?」


「神殿は、新しい奥方を探してるそうですわ。アンドレア様もずっとお一人で、寂しいでしょうに」


「サヤがなれば!? ユリエの大巫女に進言しようか?」


 サヤは赤くなって、


「私がエル・ロイル家の奥方など無理な話ですわ」


「そうかな……サヤだって、中位のエルベスト・リーアじゃん。何処かの古王国の姫君でもなれるんだぜ」


「身分が違うじゃないですか!! ただの巫女と王国の姫君とでは!!」


 サヤは大声で叫んだ。

 後ろにロッソが来て、ゴホンと咳ばらいをして自分の存在をアピールした。


「サヤにはアンナ様が独り立ちされる日まで、結婚はお預けだ」


「ロッソ。そんなことしたら、サヤが売れ残るぞ」


 アンナレッタが言うと、ロッソは当然といったように、


「姫が早く婿を取るなり、嫁に行くなりしたらよろしいことです」


 アンナレッタの顔が風船のように膨らんだ。


 館に入ると父のアンドレアが待っていた。


「アンナレッタ……」


 珍しく父の方から、珍しく声をかけてきた。


「どうしました?父上」


 父はとても長身なのでアンナレッタは、首をかなり持ち上げなければならない。

 アンドレアはとても、言いにくそうにしていた。

 が、アンナレッタは直ぐに察した。


 風たちはとても噂好きである。

 そしてアンナレッタは、今は風使いである。


 父が知りたいのは、母の近況である。

 母が去った後も父は西域を幾度も訪れている。

 しかし気位の高い母は、ついぞ、銀の森に戻って来ることはなかった。

 そして、5年前に近衛の騎士と身分違いの恋をして懐妊。

 女児が生まれた。

 皇族の母を持つとして、その子には公爵の地位が与えられたが、母は皇族を離れた。


「シェレンナは元気ですよ。四歳になりますね。母上に似て、金髪で碧眼だそうです。シェレンナが娘ならよかったとお思いですか?」


 母のジオレッタは、今の夫君と仲が良いと聞く。


「どちらにせよ、父上と母上はとっくに終わってます。もっと早くに迎えに行って、強引に連れ帰って来ればよかったのに」


「そんな、強引になど無理なことだ!」


「父上、女心が分かってませんね。女は少し強引な方が良いって人もいるんです」


 アンナレッタは父の心など、とうに見抜いていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る