第10話  風の騎士、初仕事

 アンナレッタは、大声でリカルドを呼んだ。


「風の騎士!!」


 アンナレッタの頭上に控えていたリカルドは、その魔力の帯びた力強い言葉に、自分の中にも力が湧いてくるのを感じた。


<何をする気だ!?>


「取りあえず、この部屋をぶっ壊せよ。お前の本気の力が見たいから。」


<や、やってみる……>


 リカルドは思い切り力を使ってみた。

 自分の身体の中を風が通り抜けて行くことを自覚した。

 部屋中に風が吹き荒れた。


<気持ち良いかも~~>


 リカルドは、良い気分になって暴れていた。人間だった頃は息をひそめるように生きていたので、反動が出ているのかもしれない。


 その間にアンナレッタは縄をすり抜け自由になっていた。


 誘拐犯は、目を白黒させていた。


「何故だ!!」


「これでも、私は姫だ。誘拐された場合の対策は、叩き込まれている。

 縄抜けなんて、5歳で習得したぞ」


「姫だと!?」


 誘拐犯は驚いて言った。


「お前に用があるのは、皇子なんだろ!?私はこれでも、ロ、イ、ル、の姫だ!!」


 誘拐犯がまだ、信じられないような顔をしてたので、アンナレッタは、


「証拠が必要のようだな」


 と言って、着ていた旅着を脱ごうとした。


<馬鹿!! やめろって!!>


 リカルドはアンナレッタの前に立ちはだかろうとして、自分が透けていることに気が付いた。

 アンナレッタは大笑いである。


「自覚のない奴」


 リカルドはアンナレッタを凝視している誘拐犯に気が付いた。

 アンナレッタの魔法の力に驚いて、固まっていた。


<お前だな~~ アンナに眠り薬を盛っただろう~~!!>


 リカルドは悪人面の誘拐犯の顔と、ご対面する羽目になってしまった。


<この誘拐犯め!!>


 何処か既視感を感じたので、まんじりと誘拐犯の顔を眺めてしまった。


「どうした!?風の騎士」


 あまりにも長い間、リカルドが誘拐犯の顔を見ているので、アンナレッタは聞いてきた。


<この顔……見たことがあるかも……そうか、義母上の雇った殺し屋に似てるんだ!!>


「お前、誘拐犯と知り合いか~?」


 誘拐犯は、アンナレッタのの独り言に不気味に思った。


「何をゴチャゴチャ言ってるんだ!! それにこの風は何だ!?」


「風の精霊がお前の目の前にいて、お前を知ってるらしいぞ」


「はぁ?」


 悪人面の誘拐犯はキョロキョロと辺りを見渡した。

 誰もいない。少しホッとして言った。


「誰もいないじゃないか!!」


「まぁ、普通の人間に精霊は見えないよな」


 アンナレッタはクスクスと笑った。

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